花を占う

「フィボナッチ数列を知っているか?」

 唐突にあいつが言った。

「まえのふたつの数字を足すと、次の数字になるってやつだろう」

「さすが秀才」

「天才の間違いだ」

「おまえは秀才だよ」

 そのほめ方が、なぜか嬉しい。

「で、それがどうしたんだ?」

「自然界の黄金律」

「ひまわりの種とか、貝がらとかね。もっとも美しい螺旋を示す数値になるらしい」

「1:1.618」

「1:1.618か」

「はなびらの数もこの数字に支配されている」

「へえ」

 あいつはカウンターの花瓶に挿したガーベラを一本引き抜いた。

「これは五十五枚」

 引き抜いていく。

 確かに五十五枚だった。

 あいつは手元のペーパーに書き始めた。

「0、1、1、2、3、5……」その横に、引き抜いたあざやかなオレンジ色の花びらが山になっている。

 ふと、その手が止まった。

「好きと嫌いをたすと好き。嫌いと好きを足すと嫌い」

「なんだそれは」

 もう一本、黄色のガーベラを花瓶から引き抜いた。

「好き、嫌い、好き、嫌い」

 黄色の花弁がオレンジのそれに重なる。で終わったとたん、俺は爆笑した。

「花占いか」

「前のふたつを足すんだろう? 好きと嫌いをたすと好き。嫌いと好きを足すと嫌い。好きと嫌いをたすと好き。どっちだ?」

「意味が違う」

「好きで嫌いか? 嫌いで好きか? おまえはどっちだ?」

 のぞきこむ目の色にどきりとする。

 逃げるようにグラスを取り、氷がとけた液体を含んだ。かすかなアルコールが喉をすべり落ちる。

 あいつは興味を失ったかのように、半分毟ったガーベラを構わず花瓶へ戻した。

 指がカウンターを撫でるように、毟った花弁を集める。手のひらに集められ、捨てられていく。

 そのあざやかな色彩に、俺は目を奪われていた。







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