第6-3話 黄色か赤か

 歌い出しはうまくいった。点数バーも常にラインに添って色がついている。たまにラインから外れてしまうがこれぐらいならいつもだ。全部揃うに越したことはないが今の俺には無理。ずれたことで歌の方に影響が出るほうが嫌だ。落ち着いて歌え。

 1フレーズづつでも高得点を取れているエフェクトがよく流れる。これならいい点が出そう。なんなら最高得点か?

 お気に入りのサビではモチロン全力で声を出す。元々そういう歌だし、なによりそっちのほうが気持ちいい。サビが終わりBメロになる。ここで落ち着け、張り上げたままだと採点が伸びきらないぞ。Aメロのように優しく優しく。

 そしてもう一度サビ。なによりこのままラスサビに続く。最後まで持ってくれぇ。

 ラスサビのビブラートを聞かせて採点終了。もうあとは祈りだけだ。

 途中から櫻尾の視線をちょいちょい感じてた。他人の目の前でこれだけ全力なのは珍しいんだろうか。ケイといると当たり前だからわからん。

 それについついカッコつけて歌ってしまった。いつもなら歌っていないときはスマホを触っているんだが、その時もしっかりムービーを見て歌に入り込んだ。なんならPVみたいに感情を込めた身振り手振りもしてしまった。思い返すと恥ずかしいなコレ。……ダメだ。本格的に顔が赤くなってきた。

「点数出ましたよ」

 自分の中に入り込んでしまっていたところを櫻尾の声で呼び戻される。そうだ。どれだけかっこつけてもしっかり点数が付いてこればカッコいいもんよ。頼むぜ採点ちゃん。お前にかかっているんだ。

 テンテテデッデーと褒め称える音楽と点数がディスプレイに表示された。俺は知っている。この音楽が意味するところを。

「89.9点。すごいじゃないですか」

「うおぉぉぉぉぉ。あとちょっとじゃないか。どぉうして!!」

 あれだけかっこつけたんだ。せめて90点は欲しかった。なんなら自己新記録を更新したいくらい。本気で悔しい。けどまぁほとんど90点みたいなところあるし。問題ないでしょう。これで対面は守れた。提案しておいて悲惨な点数だったら目も当てられない。

「ケイとくるといっつもこんな感じだな。お互い歌って点数に一喜一憂してる」

 嘘だ。ここまでカッコつけたりはしない。けどそれを知らない櫻尾は俺のことを尊敬の目で見てくる。

「こんなに高得点を簡単に出すなんてすごいじゃないですか。もっと聞きたいです」

「いいぜ。それならどうしようか」

 褒められるなんてそうそうない。いっつも褒めるというよりは競っているからだな。純粋に褒めらるとなんだかくすぐったい。

 よし、もういっちょ歌ってみますか。

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