第6-2話 迷ったら履歴を見がち

 駅前にあるカラオケにやって来た、というか戻って来た。なんなら本当にいつも言っている店まで戻ってやろうかとも考えたが、流石にやりすぎだろう。店なんてどこでも大して変わらない。

「ここがカラオケなんですね」

「もしかして初めて?」

「はい。お恥ずかしながら」

 それは珍しい。櫻尾のことだからてっきり取材のために来ているもんだと。というかそうではなくとも来たことがなかったのか。

「べ、別に来たくなかったとかではないですし、友達に誘われたこともあったんですよ。けど歌っているのを見られるのが恥ずかしくて。だから断ってたんです」

「そういう人もいるもんな」

 俺とかケイは他人の目は気にしないんだが、ほかのツレで歌わずに楽しそうに一緒にリズムを取っている奴はいる。

「行くだけ行けばいいのに。それこそ執筆のためにさ」

 俺とこうしてここに来ているんだから櫻尾も誘いを断らずに行けばよかったのに。そうすればまた違う風景になりそうなのに。

「ほんとうにケイといる時みたいにすればいいんだな」

「はい。そうしてください」

「よし、それじゃまずはこれからだ」

 最初にするのは曲を選ぶでもドリンクを取りに行くでもない。パッドを操作してまずすることといえば、

「採点ですか」

 陽気な音楽とおもに画面が採点モードに切り替わる。

「そ、いっつもこれ」

 これを入れてから俺たちのカラオケはスタートする。

「これで自分の最高点を更新したり、自分はどれくらい上手く歌えているのか知って遊んでるんだ」

 本当は点数を競い合ってジュースを奢ったり、宿題を見せてもらったりと賭け事みたいにもしているんだが櫻尾相手にはしない。初めてカラオケにきたような奴に吹っかけることじゃないし、何よりケイとだからできる遊びだ。

「それじゃまずはテキトーに曲を入れてくぞ」

 よく歌うバンドの曲を入れていく。勿論好きな歌をどんどん入れていくが、PVがあるかどうかは結構大きな差だ。たとえ好きでもPVがないと選曲しない時もあるぐらいだ。人気のバンドでもPVはあるけどちょっとマイナーな曲、例えばアルバムのみに収録とかだと映像が一世代前の服装で、よくわからない男がフェンスにもたれかかっているのを見せられて終わる。テンションが上がらないと点数も上がってこないからな。けど、そういう曲に限って好きになっていくんだよな。

 曲名の横にPVがあるかは乗っているが、よく歌うからどの曲がPVが流れるはもう見なくても分かる。その中からまずは歌いやすい曲を入れていく。そして画面が切り替わりイントロが流れ出した。

 頼むぜ俺の喉、恥ずかしいところは見せれないぞ。

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