第6-1話 いつもの行動のこころがけ
映画館を出ればすでに四時を回っていた。街の色が少しずつオレンジに変わり出す。すれ違う人たちの影も長く、眩しそうに目を細めている。今日が平日だったらまさにこれからが自由時間だと遊び回るんだろうが、今日は日曜日。俺たちはもう遊び回っている。それに普段はやらないようなことをしているんだ。ちょっと疲れ気味。こんなことを世のカップルは平然とこなしているのか。新発見。
「俺の考えたことはこれで終了。これでなにか掴めそうか」
俺なんかは全くどうすればいいのかわからない。映画ってプランはむしろ失敗だったかも。二時間集中映画にする分、恋人との時間という感じじゃないことがわかった。櫻尾が求めているモノになったんだろうか。
「正直、わからないですね」
やっぱり。力不足で申し訳ない。
「でもいいんですよ。全部が全部小説のためだって思っていたら疲れちゃうじゃないですか。だから、そういうなにかのためじゃない時間も必要ですから」
「フォローしてくれてるんだろうけど遠まわしに役立たずって言ってるぞそれ」
「いえいえ。本当にそんなつもりは」
櫻尾は優しいなこんちくしょう。余計僻んじまう。
「それによく言われたことですよ。まずは自分を優先して生きろって」
「それは……」
「はい。お母さんがよく行っていました。だからそれは忘れないようにしようって」
その証拠にと、いつもカバンに入れて手放さないネタ帳の最後のページを見せてくれた。ここには小さく隅に櫻尾が言った言葉が丸々書かれている。
「私の悪い癖なんですよね。小説のことしか頭にない。ほかを蔑ろにしちゃう。だからこうやって言葉に残しておけば絶対に忘れないし、思い出せる」
頬を赤らめながらカバンにしまう。そりゃ自分の秘密とも言えることを教えてくれたんだ。誰もいない自室なら転げまわっていそう。
「ごほん。このあとどうしようか」
ワザとらしいが、こうでもしないと変な空気が続いてしまう。強引に話を戻そう。
「夕飯も一緒に食べようかとは思っているんだがまだそんな時間でもないしな」
早めの食事にしても早すぎる。それに映画館てエネルギー消費しないもんな。ずっと座っているだけがし。全然腹減ってない。
「それなら一個いいですか。辰己さんが私じゃなくて、田原さんと一緒にいるんだとしたらどこに行くんですか」
「ケイといるとき? んー。なにしているんだろう」
自分の行動を思い出せ。あいつと遊ぶ時って何してるんだ。一番多いのは、カラオケか。
「それならそれをしたいです」
「そんなことでいいの? もっとこうさ。名加屋でしかできないこととかじゃなくて」
「それをいったら映画だってそうですよ」
全くその通りですはい。
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