第5-21話 遠いから眩しい
俺ってもしかしなくても想像以上に恋愛偏差値が低いのでは。そう思ってしまうのは映画館を出てすぐのここだった。
「映画良かったな」
「はい。分かっていた展開ですけどハラハラしちゃいました。主人公が街中を探し回っている時なんかは私も主人公と一緒の気持ちでしたもん」
やばい。そんなシーン知らない。始まって30分も立たずに寝てしまったなんて冗談でも言えない。俺が起きた時にはもうエンドロールが流れていたんだ。黒バックに流れる文字に何を感動すればいいんだか。それに何より、これではネタ探しにならない。どこの世界にデート中寝る奴がいるんだ。参考になるとしても反面教師だ。
「ほんとほんと。あそこはどうなるか手に汗握ったもんな」
とりあえず話を合わせていこう。下手に感想を言わないほうがいい。櫻尾に意見を合わせていけば大丈夫。
「辰巳さんはどこが良かったです?」
まずい! 一番答えられない質問が来てしまった。考えろ俺。覚えている三十分のシーンで考えろ。『起承転結』の『起』なんだから答えても不自然じゃない。思い出せ。
「そのーあれだ。転校前から出会っていたってのはいいよな。俺たちだって同じようなもんだったし。あっちは喧嘩してたけどさ」
この二人の初対面も学校ではなかった。なんと痴漢に間違われるところが始まりなのだ。普通学校であったら気まずいだろう。
「痴漢疑惑からの恋は衝撃的ですよね。CMで何回も流れているから慣れちゃってましたけど」
「だろ?」
よしこれで乗り切った。
「世の中にはいろんな出会い方があるんですよね。辰巳さんが言うように私たちもその部類になるじゃないですか。初めての出会いが公園ですもんね」
「俺たちが特殊側にいるんだったりしてな」
とはいえ何が起きるのか起きているのか分からないこの世の中、自分の想像なんてものは簡単に飛び越えてくる。
高校生とは言え、もう現実が見えてきている歳だ。フィクションに憧れるのは自分の手の届かないところに輝きがあるから。
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