第5-17話 目線の先
苺の程よい酸味とか、クリームがパンケーキの熱でゆっくりと溶けていく様が食欲をそそるとか。目の前にあるものを紙にも落とし込んでいく。
確かにこの格好はほかの人には見せられないな。周りの客は自分たちのことしか見えていないが、こう、対面でいきなりノートを開かれると戸惑う。
「やっぱり気になりますか?」
櫻尾と目が合ってしまった。覗き込み過ぎたか。
「悪い。ちらっとだけ中身を見えた」
「えっ」
「あ、安心してくれ。本当にちょっとだけだから。書き始めた数列だけだから。それ以外のところは見ていない。断言する」
「本当ですか。信じられないですね。そんなにまじまじと見て」
「本当だって。もうそれは信じてもらうしかない」
慌てふためく俺に櫻尾がクスッと笑った。
「分かりました。信じます。それにしてもそこまで慌てちゃうと本当はもっと覗いてたんじゃないかって、逆に怪しいですよ」
「けど見られたと思ったからそんなこと聞いてきたんだろ」
「そんなことって?」
「気になるのかどうとかってさ」
今度はクスッとよりも大きく笑われた。
「違いますよ。辰巳さんは気にしないって言ってくれましたけどこんなに堂々とネタ帳を広げているんです。周りに人から見たら好奇の的なんじゃないかって。私は集中しているので書いている最中は気にしないですけど、辰巳さんはそうはいかないじゃないですか」
なんだ。そんなことか。俺は全く気にしないのに。
「周りの人達なんかは俺たちに眼中にないって。カップルできてる奴なんかは他の人に目を向ける暇なんか無いさ。友達同士で来てる奴だって似たようもんだろうよ。もっと気楽にしてればいいさ」
「それなら退屈じゃないです?」
「いんや。俺だって一応自分のネタのために来ているんだから考えることはあるさ」
最も櫻尾の行動を見ている方が楽しいから正直ネタのことは忘れていたのだがね。
「俺のことは気にせずにしてればいいよ。それよりもいいネタにしてくれよ」
「ははは、なるといいんですけどね」
そう言って櫻尾はインプットに集中していく。その間に俺は自分の話を少しでも考えよう。
流石に俺はノートを広げる場所は無い。櫻尾の注文した品を俺の方に持ってきているからだ。なんなら持ってきてもいない。言い訳をさせてもらえれば、スマホがあるんだからメモ機能を使えばいいかと思ったから持ってきていない。そしてそのスマホは通知のポップアップが未だ定期的になっているから出られない。
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