第5-16話 独占とイタズラ

「どうです? 上手く写ってますか」

「あぁ。ありがとう」

 ケイからの催促がずっと送られてくるがマナーモードにしておいてポケットにしまう。このまま待っていればやがて落ち着くだろうさ。

「お待たせしました」

 店員さんが持って来たパンケーキは雑誌でおすすめされるに値する美味しそうなものだ。ホイップが山のように乗っていてその上から櫻尾なら真っ赤なイチゴのシロップが、俺のはあんこと一緒に抹茶クリームが見事にかかっている。お皿もおしゃれで写真を撮るためだけに足を運ぶのもうなずける。

 櫻尾は周りに習って何枚か写真を撮っていく。

「……」

 集中している櫻尾を見ているとつい悪戯心が擽られる。櫻尾の今の姿を写真に収めたい。

 仕舞ったばかりのスマホを取り出す。しかし画面はすぐにカメラに出来なかった。

「あいつどんだけ見たいんだよ」

 ケイからの連絡で画面が埋まってる。この短時間でどれだけ送ってくるんだ。

 クソ、あの時送っていればいま邪魔されずに桜尾を撮れたのか。けど見せるのもなんか嫌だったしなぁ。

「撮らないんですか」

 うん諦めよう。心のフィルムに収めるにと止めるとする。

「櫻尾の写真を後で貰うよ。同じのが何枚あっても変わんないだろうさ」

 そうですか、と引き下がる櫻尾。

「それじゃ俺は食べるぞ。もう写真はいいか」

「はい。いっぱい撮りましたから十分です。それじゃいただきます」

 いただきます。

 フォークとナイフを持ったがどうやって食べるんだ。クリームがたっぷり乗ったパンケーキになかなか一刀目が入らない。切ったところからホイップやクリームが落ちてしまいそうだ。

「ええいままよ」

 イマドキでは言わない言葉で勇気を出してナイフを入れた。皿が汚れるのは諦めよう。第一に美味しく食べることを優先するべし。

 一口大に切ったケーキにホイップをつけて一口。

「美味しいですね」

 櫻尾の言う通りだ。あまり前だが家で作るものとは大違い。生地はふっくらしていてホイップの甘さとマッチする。抹茶のほんのりとある苦味が良いアクセントとなっている。

「ほっぺたが落ちるってのはあながち間違いじゃないな」

 昔の人も美味しいものを食べて同じ気持ちになったんだな。

 目の前の美食に浸っていると更に前にいる人が突然ノートを取り出した。

「何やっているんだ。こんなところで勉強か」

 櫻尾は食べながらノートになにかを書き込んでいく。申し訳ないと思いながらもちらりと覗かせてもらおう。

 そこには写真では残せない味の感想や目の前に運ばれてきた時の感情が綴られていた。

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