第5-11話 見当違いもほどほどにね
「あんまり離れないでくださいよ」
「お連れ様がお見えでしたか。失礼しました」
申し訳なさそうに店員が離れていく。
これも仕事なのだから仕方ないだろう。店員も運が悪かったんだと諦めてくれると俺としては気が楽だ。
「一人だとこういうこともあるんですね」
「男だけだと女の客がのんびり買い物できないからだろ。店員さんもしたくてしてないさ」
それに、キョロキョロしていたから余計怪しまれたんだと思う。場慣れしていてもっと堂々としていればよかった。
「それじゃ一緒にいましょう。そうすればさっきみたいに誤解されないですしね」
そうだ。櫻尾の服を探すにしても近い距離で探すべきだった。これは反省。
「それでいいの見つかりました?」
「何着かな。先に言っておくけど、適当に選んだから過度な期待はしないでくれよ」
手に持っていた服を櫻尾に渡す。それらを一通り見てからカゴに入れていった。
「もしかしてそれ全部買うのか。結構な金額になるぞ」
「まさか。そんなことしませんよ。これから試着するんです」
そりゃそうだ。服のサイズもあっているか確認しないとな。
「それじゃ付いてきてください」
「いや、わざわざいかんでも。どうせサイズ見るだけだろう」
「……もう。それにまた声かけられたいんです」
いや全く。おとなしく櫻尾についていくか。
「それじゃちょっと待っていてくださいね」
「おう」
そう言ってカーテンを閉め消えていく。
んー、ここで待っているのはいいのだろうか。何も知らない人から見たら一人なんだしさっきと変わらないような。しかし、待っていてくれと言われた以上、離れられない。
「これはどうですかね」
試着室から出てきた櫻尾は先ほどカゴに入れていた服を来て俺に見せてきた。
「いいんじゃないか。ぴったりだ」
「本当ですか。それじゃあ」
もう一度中に戻る。
ゴソゴソと音が聞こえる。どうやらまだまだ試着は終わらないようだ。
「それじゃ、こっちなんかはどうです」
「おお、それも合ってるじゃん」
「んじゃ次ですね」
そして着替える。
「これはどうです」
「いいんじゃないか」
「んー。辰巳さん。本当に思ってます? 全然感情が篭ってないですけど。適当に返事してますよね」
「まさか。本心だぞ。サイズは大丈夫じゃないか」
「ん?」
「ん?」
どうやらお互い意思が疎通しきれてない模様。俺は、
「サイズはぴったりだぞ」
「はぁ。そういうことですか」
櫻尾がわかりやすく肩を落としている。間違ったこと言っているか。
「この状況ならサイズとかじゃなくて私に似合っっているかを聞いているんですよ」
「そ、そうか。それはすまん」
いくら経験不足でもこれはひどい。自分のことながらがっかりだ。次からは気を付けないと。
「それじゃ待っていてくださいね」
うっし次こそは。
「あのー。よろしいですか」
「はい?」
声をかけて来たのはあの店員さん。
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