第5-10話 色とりどりの装い

「なんも思ってなかったらこうしてないぜ」

 ただ付き合うだけでいいとしても休日に足を伸ばしているんだ。折角なら面白いものを書いてもらいたい。

「……ありがとうございます」

「どういたしまして」

 どうして感謝されるのか分からないがとりあえず返しておく。

 数店舗回ったあとに目的地であった店にやって来た。

「私ここのブランドが好きなんですよ。結構お手頃で、向こうにいた時も何回もお世話になりました」

 服は全く知らない上に、女の子向けのブランドなんて何一つ分からない俺でも聞いたことがあるブランドだ。よくいろんなところに出店している。

「ここならわざわざこっちにまでこなくても良かったんじゃないか」

「どの店にも同じ服が置いてあるわけじゃないんですよ。大きなお店にしか置いてない数量限定ものだってあるんです。せっかくならみたいじゃないですか」

「そういうのもあるのか。ならわからんでもない」

 期間限定や数量限定という言葉の響きは人に苦労を惜しませない。

 ニュースで行列もそういう言葉に誘われている人たちだ。

「それにもう一つ」

「何が?」

「……デートのネタにと」

「確かにさっきまでのも使えそうだもんな」

「というわけで入ってきましょう」

 櫻尾の後ろをついていく。今までも色々見て回ったから、流石に雰囲気に飲まれたりはしない。俺も服を見て回る。

 先程もまでのウィンドウショッピングでなんとなくではあるが、櫻尾の気に入りそうな傾向はわかった。デートのネタとしていっちょ頑張ってみますか。

「なぁ、これなんかどうだ」

 そう言って渡したのはピンク色のふんわりとした装いに似合いそうな服。最初の店舗で見ていたものよりは落ち着いた見た目をしている。春コーデのコーナーに置いてあったからこれからの季節にピッタリだろう。

「それいいですね。カゴに入れて置いてください」

 入店時に取ったカゴに入れていく。ほかにも何着かすでに入っている。

「ほかにも似合いそうな服探してみてくださいよ」

「オッケー。頑張ってみるわ」

 とりあえずまだ探してみるか。傾向がわかってきたといってもよくわかっていない。手当たり次第にに合いそうな服を探してみるか。

 ちょっと櫻尾から離れて服を物色していると、

「いらっしゃいませー。なにかお探しですか」

 店員に声を掛けられた。

「ちょっと探し物を」

 まさか俺に来るとは。

 こういうのは苦手だ。どういうふうに答えればいいのか分からないし、服を買わなきゃいけないと押し付けられている気がする。

「男の人一人なんて珍しいですね」

 そうか、防犯のためだろうか。男一人客なんてこの店にとっては異物そのもの。だからわざとこうやって声をかけてくるのか。

「まぁその」

 誤解を解かなければ。しかし、緊張のあまりうまく言葉が出でこない。こうしていると変な人に間違わててしまう。

 店員の目が徐々に細くなっていく。

 もうこれ、無理だわ

「いや、何でもないです」

「ちょっとどこいってるんですか」

 そこに現れたのは救世主櫻尾さん。

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