第5-9話 非モテ小市民
「そう……。それならそれでいいんじゃないか」
「このお店もいいですけどほかにも回っていきましょうよ」
そう言って櫻尾は隣の店に入っていく。
おいおいまさか全部回っていくのか。一フロアに十店舗ぐらいあるぞ。いくら時間があるって言っても回りきれるのか?
「こんなのも売ってるんですね。あ、これ私も持ってる」
「そりゃ各地で売ってるだろうな」
「そうなんですけど、そうじゃなくてもっと言い返し方はないんですか」
「なんて返せばいいんだよ」
「例えばですね。『いいじゃないか。それ。可愛くて』みたいなですね。」
「そんな難しいぞ」
量産品なんだから同じものもあるだろうさ。
「一応私たちネタ集めのためにデートをしているんですよ。自然体も必要ですけど、もっとデートしている風にしていきましょうよ」
デートしている風……。全くわからん。助けてくれケイ。始まってそうそうどうしていいかわからない。
「といっても私もこれで合っているのかわかりませんけどね」
「そういえば誰かと付き合ったことないんだっけ」
前に行っていた。今まで小説一辺倒だったんだよな。
「流石に友達と買い物したことはありますよ。けど、そもそも友達も少なかったですからね。そんなにしょっちゅうお出かけをしていたわけでもりませんし。だから辰巳さんと同じですよ」
「同じって何が」
「さっきからオドオドしているのが伝わってきますよ」
隠し通していたつもりだったが見抜かれていたのか。そりゃ、実際、こういう場所に来たことはほとんどない。そして異性となんて全くない。そもそもケイたちに連れられて遊びに来たくらいだ。
「けど、私もなんです。どうすればいいのかわからないんです。映画とかドラマの中のデートしか知らない。自分から付き合わせておいてなんですけど、何もかも手探りなんです」
「いいんじゃないか」
「え」
「そういうわかんない同士のことを書けば」
もういっそのこと開き直ろう。俺は世の中のデートを実行に移せる自信はない。このあとの考えはあるにはあるが、ネットで調べたことをそのまま実践するつもりだったんだ。
「周りの人から見たらどう見えて、小説のネタとしては合格点にならないかもしれない。けどさ、無理に普通のデートを書こうとして変になるよりも、実際の俺たちのことを書けばいんだよ。俺はそっちのほうが見たいな」
近くにあった服を手に取る。小市民な俺はどうしてもまず値段を見てしまう。うわ、これも高い。女の子は大変だな。こういうのにも金かけなくちゃならないのか。
「辰巳さんは読みたいって思ってくれるんですか」
「そりゃな。だから一緒にこうしているんだろ」
何を今更なことを。
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