第5-7話 口は赤面のもと

「さっき言っただろう。それでいいじゃん」

「行ってませんよ。なんか人違いされただけです。本人だったのに」

「それなら言ったでしょう。綺麗だから間違えたって」

「えっ」

「とにかく行こうぜ。ここにいてもやることないんだ」

 休日のこの時間、俺たちの周りには本当のカップルがうじゃうじゃいる。こんなところに恋愛弱者である俺がいたら気が狂ってしまいそうだ。これから一応デートをするんだ。今のうちからメンタル保っていかないでどうする。一日は長いぞ。

「その、辰巳さんは私のことを褒めてくれたんですよね」

「そうだな。褒めたよ」

「それも本心で」

「まぁ口には出したな」

「出してませんよ」

「出してないな。うん。……うん?」

 なんと、出してないだと。

 櫻尾の顔を見れば赤くなって下を向いている。一瞬目があったと思ったがすぐに逸らされてしまった。

 思い返せば確かに行ってないかもしれない。慣れないデートとありえないナンパのダブルパンチで自分の数分前に何を行ったのかすら思い出せなくなっているのか。

 それで内心で思っていたことをそのまま櫻尾に伝えたんだな。なんも飾っていない本心を。

「あのだなその、違うんだ。綺麗だと思ったのは本当なんだ。ただ、そのなんだ、いつもと雰囲気が違くて。だから分からなかったんだよ。だから似合ってるよ。うん、そう。似合ってる。いつもの何倍も可愛いと思う」

 もう自分でも何言っているか分からない。とりあえず櫻尾の誤解を解かないと。

「分かりました。分かりました。もういいですから」

「だからその」

「分かりましたって。似合ってるんですよね」

「そ、そう。似合ってる。似合ってるぞその服」

「もう何焦っているんですか。さっきまで自分が何を言ってたのかわかっています?」

「そりゃわかってるさ」

 雰囲気が違ってるから見間違えたって言ったんだ。そう何度も記憶が飛ぶもんか。

 にしてもまだ櫻尾の顔が赤い。というよりもっと赤くないか。それこそ茹で蛸みたいだぞ。

「本当ですかね……。まぁいいでしょう。それじゃ私たちも行きましょうか」

「そうだな。まずはどこに行くんだ」

 今回俺たちはお互いにデートプランを別々で考えることにした。決め事としては名加屋を中心とした行動範囲にしてある。地下鉄を使えば簡単に行き来で来るから地図上では多少離れていても問題はない。男のプライドとして先に断っとくと、俺が全部デートプランを考えるように最初は言ったんだ。けど、櫻尾は「自分の小説なんだから、私が考えますよ。辰巳さんには付き合ってもらう側なんですから」と言ってきた。もちろんこれには応じれない。だから、折衷案問うことでお互い交互に行きたい場所を決める事にしたんだ。そしてそれは本番のお楽しみにてな。

「barcoです」

 あの服屋かぁ

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