第5-6話 最初の会話の定型文
「そ、それは……」
言えない。こんな美人に話しかけられる人生を送っていないから詐欺に間違えたんて。
「あれ、あれだよ。連絡取れないからまだ駅に着いてないと思ったんだ。だからこころん準備が出来てなくてさ」
「そうなんですね。それはすみません。連絡着てたのに気づきませんでした」
カバンから出したスマホがちらっと見えた。アイコンのところには未読マークが確かについているな。
こんな人ごみの中、歩きスマホは危ないんだし、電車降りてすぐなんだからマナーモードにしっぱなしだっただろう。それなら気づかないか。
「怒こってないんですか」
「なんで」
「だってもっと早く来てたのに辰巳さんを待たせたんですよ。なにか小言のひとつくらいあるもんだと」
「時間ギリギリだけど遅刻じゃないんだし、大丈夫だって。それに、ここに来るのは初めてなんでしょ。なら迷ってもなんとも思わないさ」
それに前、ケイにデートでは女の子は遅れて来ても起こっちゃいけないと教えられた。あのケイからの忠告だ。必ず重要なことなんだろう。
「それじぁいこうか」
「ちょっと待ってください。もう一ついいですか」
なんだろう。あ、どこに行くか、まだ聞いてなかったな。勝手に一人でどこに行こうというのか俺。
「ごめんごめん。なに」
「その、どう……ですか」
櫻尾が腕を広げ……切ってないな。こじんまりと腕を伸ばしているくらい。
どうかと問われているということは、俺になにか答えを求めているのということだ。今この状況、一体何を問われているのか。俺の国語力が試されてる。
今俺たちはデートをしているところだ。というよりデートを始めるところ。漫画とかドラマではこう「まった?」「ううん全然!」なんてやりとりから始まっている。その後はどういう流れか思い出せ。「それじゃいこうか」「うん!」そう言って手をつないでどこかにお出かけ? それとも、「ったく、わたくしを待たせるなんて躾がなっていないようね。これはお仕置きが必要かしら」「そんな、ちゃんと時間より前に来たじゃないですか」「それは当たり前でしょう。わたくしより早く来なさいと言ってるのよ」「あんまりだ~」みたいな感じか。って後半のはケイに借りた大人向け漫画の話だ。今は絶対違う。
「悪い悪い。はい」
こうやって男の方から手を差し伸べるべきだな。
「そうじゃなくて。この格好似合っていますか」
全く違っていた。恥ずかしい。
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