第5-5話 練習の本番の始まり
というあの日の回想おわり。今俺は地元から電車に揺られて名加屋にやって来た。この隣県に住んでいる人間ならばデートにまず思いつくのはここであろう。大きな人形の足元に集合との約束をしたのだが未だやってこない。電車でも止まったか? でもそれこそ連絡がくるもんだ。いったいどうしたんだ。
でもまぁ時間までに来てくれればいいか。一応まだなんだし。
暇だしゲームでもしてっか。
時間を移していたスマホ画面から、ゲーム画面に切り替える。このゲームには大して時間も使ってない。本当に気が向いた時にちょっと遊んでいるくらいだ。ケイに進められて同じぐらいに初めてみたが、レベルの差が圧倒的になっている。あいつは友人招待のアイテム目当てで誘ってきたんだし、初期の目的は達成済みだろう。あのレベルに付き合う気はない。手持ち無沙汰にはちょうどいいさ。
「辰巳さん」
スタート画面から切り替わり、これから始めていくというところで声をかけられた。目の前には、それは綺麗な子がいましたとさ。
はて、俺に何用か。こんなところに一人ぼっちの男に声を掛けるなんてそうそうない。まず思いついたのはナンパだが今までの人生でそんなことが起きないことは検証済み。変な絵とか壺でも交わされるのか。財布には貯金しておいた金をある程度は持ってきた。たまに千円もない時があるが、流石に今日そんな状態では大恥を書くだけだ。
ま、まさか、この金をむしり取ろうというというのか。そうはさせんぞ。
「すいません人待ちなんで。他あたってもらっていいですか」
実際に待っているんだ。櫻尾はまだ来てないようだがここで待っていないといけないだろう。勝手にどこか言ってしまっては櫻尾が可愛そうだし、俺の財布も寂しくなるそう。
「他ってどこにいるんですか。そんな人」
「へっ」
よくよく見れば目の前の声を掛けててきた人物こそ我が待ち人である櫻尾本人。
「すいません。どの出口から出ればいいのかわからなくて。人の流れに乗っていったらいけるんだと思ったら別のところに出ちゃって」
間違えて地下鉄の方に流れていく人が多いからそっちに行っちゃうと回り道になる。大きな人形はホーム降りてちょっとのところにあるんだが慣れないと迷ってしまうかもな。
「いいよ。俺も今来たところだから」
「嘘ですよ。本当はもっと早かったんでしょ。知ってますよ。同じ電車に乗ってたんですもん」
「それならその時に声かけてくれれば良かったろう」
「だって電車の中で会うよりも、向こうで集合したほうが雰囲気出るじゃないですか。私たちの経験が小説に反映されるんですもん。雰囲気作りから頑張らないと」
櫻尾なりのこだわりが発揮しているな。
「肩肘貼りすぎるなよ。ケイも言ってたろ。テキトーに遊ぶだけだって。のんびり行こうぜ」
「そうかもしれませんが。それでも楽しみだったんです」
「わからないでもない。俺も楽しみにしてたしな。てなわけで、まずはどこに行こうか」
「その前に一個いいですか」
なんだ急に。
「なんでさっき私って分からなかったんですか」
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