第5-4話 記憶能力低下
「受け売りでもいい言葉だと思うぜ」
「はい。だから辰巳さんも一緒に頑張っていきましょう。書かない一流よりも書く三流です」
「それもお母さんの」
「いえ、私のなんです。お母さんのセリフがかっこよくてついつい真似しちゃって」
素人が考えたとしてもいい言葉だと思う。まさに今までの自分には無い考え方だ。行動を起こすやつが偉い。俺もそうなりたいな。
「とはいってもまだ私は一作も完成させたことないんですよね」
自嘲するように笑う櫻尾。でも俺は違うと思う。
「別に完成させるだけが偉いんじゃないだろうさ。もちろん完成するに越したことはない。それでも俺はこうやって行動に移している櫻尾は十分行動しているだろうよ。書かない一流より書く三流だっけ。なら櫻尾は書いてるじゃないか。まだ完成してないから一流だとか三流だとか決められないだけさ」
櫻尾の姿を見て俺も頑張りたいと思ったんだ。そのことを櫻尾にも自信を持ってもらいたい。頑張っていることは決して否定されることじゃなんだ。
「あ、ありがとうございます。そんなに言われるとは思いませんでした」
「い、いや。俺のほうこそわかったようなこといったな」
櫻尾の顔が直視できない。本心だったとはいえ、こんなキザったらしいことを言ったんだ。顔から火が出そう。
櫻尾も俺の方を見てくれてないような気配。この方がいい。今こっちを見られたら自覚す程熱くなっている顔を見られてしまう。
「そういえば俺たちなんのはなししてたんだっけ」
「なんでしたっけ」
とりあえず、いまの恥ずかしい状況からは脱せそうだ。無理矢理ではあるがそれでも変な空気のままいるよりも何倍もいいぞ。
「ネタ帳とメモ帳は違うって話をしてただろう。その前には」
「辰巳さんがラブコメを書くって話からでしたよね」
そうそうその辺がスタート位置だったかな。ここからゴールの赤面までどうやって走ってきたっけ。
「えっと。田原さんにネタ帳を見られたくないって話ししてて、そこから妄想ノートの話になったんですよね」
「それはゴール間近の話だな」
ゴール? と首を傾げられた。そいや声に出してなかったな。まぁいいや。
「その前に話してたことが重要だったんじゃないか。ええっと」
「そうだ。思い出しましたよ。私たちがデートするって話です」
そういやそうだった。自分と櫻尾、二人の執筆に関わってくるのにデートの一単語によって記憶から抹消されてしまっていたのだ。
「というわけで今度デートしましょうね」
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