第5-3話 咲かせられる人でありたい

「にしても今の俺カッコ悪かったよな。せっかく誘ってもらったデートを無下にしようとしてさ」

「そうかもしれませんね」

 その一言は心に来るぞ。でも櫻尾の言う通りで、こうも断るようなことはしないもんだろうさ。今まで恋愛ごとと関わってこなかったんだから許して欲しいもんだが。

「でも私も似たようなことはするかもしれません。だっていきなり知り合ってそんなに日にちも経ってない私たちじゃないですか。普通の人ならこうは行かないです。けど、辰巳さんが今まで私に付き合ってくれているからこの人なら信用できるんだと思ったからお誘いしたんです。まさか渋られるとは思ってませんでしたけどね」

「意地悪だなぁ。もう勘弁してくれよ」

「ふふ、そうですね。最後には頷いてくれたんですもんね。許します」

 神様にも櫻尾様にも許しを得たんだ。これで大手を振ってデートができるぞ。

「それじゃデートプランを決めていきましょう。目的のひとつの一緒に悩むってやつですね」

「この間ケイに聞いてた話をメモしてたよな。それ見せてもらってもいいか」

 櫻尾は部屋の隅に置いてあったカバンから手帳を持ってきた。

「ネタ帳じゃないんだな。てっきりネタ帳にデートプランを書いてあるもんだと思ってた」

「あの場でネタ帳を開くなんて恥ずかしいですよ。田原さんは私が小説を書いてるのは知らないんですよ。もし見られたりしたら恥ずかしくて死んじゃいます」

「そういや俺も中を見たことないな。今度見せてもらってもいい」

「ダメです。辰巳さんでも恥ずかしいです」

「なんで。減るもんじゃないんだから」

「減るんです。こう、私の中の恥ずかしゲージみたいなのが」

 それはむしろ増えたほうが恥ずかしいのでは。

「ネタ帳なんてかっこよく言ってますけど、妄想ノートと行ってもいいくらいのものなんです。そんなの他の人に見せられませんよ」

 そう言われるとそうかもしれない。自分の中のものを外に出す。それは妄想を外に流すのと大差ないかもしれない。

「なら、小説を書くもの妄想なのか」

「それは違うと私は思ってます」

 力強く櫻尾が断言してきた。何が違うのだろう。

「このノートから出たネタはしっかり物語の中で芽吹いていくんです。種を埋めて花になっていく姿に誰も汚いとか恥ずかしいとか思わないですよね。あのノートの内容は、まだ他人に見せられる状態じゃないんですよ。例え、醜い花になろうとも咲けばそれは胸を張れるものだと」

 櫻尾が眩しい。しっかりと信念があって。

「格好つけて言いましたけど、全部お母さんの受け売りなんで売りなんですけどね」

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