第5-2話 Shall We Dance?

「なにしてるんです……」

 天を仰ぎ見る俺に怪訝の目を向ける櫻尾。

 仕方ないじゃないか。今までの人生でこんなこととは縁遠かったんだ。いきなりのお誘いを受ければ慌ててしまうものだ。まずは神様に許しを得るところか始めるべきなのだ。

 供物でも捧げるべきか、ここには神棚は無いようだし、もちろん家にもない。帰りに神社にでも寄ってお賽銭でも入れてこよう。幸い、五円玉はあったはずだ。

「そろそろ戻ってきてもらっていいです」

「あぁ、すまんな。んでなんだっけ」

「デートですよデート。取材のために一緒にデートしませんか」

 先ほどの発言は俺の聞き間違いではなく、やはり本当だったのか。

 にしても、

「デートか」

「そうです。何か問題でも」

「いやね。そのデートに俺がふさわしいのかなって。正直俺なんかより、ケイの方だ向いてるだろう。この間ケイに話を聞いたことから分かるけど、あいつのエスコートの方がネタになるんじゃないか」

 自分で言ってて悲しくなるが、その通りなのだから諦めるしかない。自分に出来ることできないことぐらいは弁えている。店で聞いたケイのデート知識は俺なんかじゃ到底披露できない。櫻尾の力になりたいが、ここは役を渡すべき。

「いえ、私は辰巳さんがいいです」

 ドキッとした。そんな真剣な目で目で見られたら好意を寄せられているんだと錯覚してしまうだろう。

「だって辰巳さんも書きたい話はラブコメ、恋愛の話じゃないですか。だったら私たち二人で悩んだほうがいいものがかけると思うんです」

 確かにおれもラブコメを書こうとしている。しかし何においても経験不足の俺が協力できるのか。

「それにあのとき、田原さんに言われたんです。もし、デートするなら田原さんじゃなくて。辰巳さんにするべきだって」

「そんなこと言ってたか」

「辰巳さんが席を立った時です。『もしデートという行為が必要になったんなら俺じゃなくて、ソータの方が役に立つよ。俺のほうが経験豊富だとあいつは行ってくるだろうけど、経験なんてデートする相手によって違ってくる。俺のことを誘いたいんだったらもちろん喜んでお受けするけど、櫻尾さんが一緒に痛い人を誘うべきだ』と」

 あいつ、櫻尾が小説を書いてることなんて知らないだろうに妙なアドバイスをしてやがるな。今度会った時に飯でも奢るか。

「あと、私もデートについて一緒に考えたいんです。どんなデートをしたら面白いだろうとか、楽しめるんだろうとか。そういう一緒の視点で考えられるのは辰巳さんしかいないんです。だからお願いします」

 そうも願われると辞退するわけにもいかない。男が廃るってもんだ。それに、俺のことを思ってでもあるんだ。だったら、

「わかった。そのデートお受けするよ」

「ありがとうございます」

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