第5-1話 事の始まりはそう……
青い空は遠くまで澄み渡り、白い雲は優雅に揺蕩う。まだ春先寒い空気を陽射しが温めてくれている。そんな日曜日の昼前、俺たちは駅前で集合することになった。スマートフォンは9時55分と、彼女からの連絡はまだ届いていないことを教えてくれた。
「まさかこんな運びになるとはな」
始まりは今週の始まり、月曜日だった。
先日のこともあり、あの部屋の掃除を放課後に付き合っていた。ゴールがなんとか見えてきたときに話になったんだ。
「辰巳さんはどんな話を書くのですか」
「どんな……と言われてもな」
恋愛、ラブコメというのを書いてみようくらいにしか思ってない。あれから何日か考えてみたんだが全くこれっぽっちも案が浮かび上がってこない。いっそ別の話にしたほうがいいんじゃないかとさえ思っていたほどだ。
「あの日になんとなくの方向性は決まったんじゃないんですか」
「俺ラブコメ書くとか、そんなこと言ったっけ」
「ふふふ、カマかけてみたんです」
は、謀ったな。此奴。
「とは言っても、あの時の辰巳さんの顔見てたからわかったんですよ」
「そんなわかりやすい顔してたのか」
「何書くかはわかりませんけど、なにか書こうとしてたのはわかったので。ただラブコメだったとは。私と同じなんですね」
「図らずもな。全くわからないまま決めたから今からでも変えようか迷い中。前も行ったけど経験あるわけじゃないし」
どっちも知らない俺にとっては茨の道を突き進もうとしているものだ。今のうちに本当に変えてしまおうか。
「いや、待ってください。辰巳さんも一緒にやりましょう」
「一緒にったって何書けばいいんだよ」
全くわからないもの同士の二人ではいい案は出なさそう。櫻尾もわかっているだろうに。
「いえ、一緒のものを書くということではなくてですね。一緒に下調べしましょうよ」
「下調べ」
「はい。もっと簡単にいましょう。デートです」
デート。デートってなんだっけ。一旦スマホで調べてみるか。
なになに……デートとは、日付、場所を決めて男女が逢瀬することの総称。一般に食事、買物、観光や映画、遊園地、イベント、夜景などを一緒に楽しむ、といった内容であることが多い。しかし、行為そのものよりも、それを通して互いの感情を深めたり、愛情を確認することを主目的とする。
ふむふむ。男女が出かけることを言うのか。それなら俺と櫻尾が出かければいいのか。
「て、ちょっと待て待って」
え、なに。俺と櫻尾がデートするの。今まで彼女ができたことのない俺がこんな美少女と。許されることなのか。それもむこうから。許させるはずがない。いやでも彼女からの提案なんだ。許されるべきだろう。いや、許せ。
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