第4-10話 あの日の憧れ
「それは……」
恥ずかしい。櫻尾本人に、君の姿に憧れたと言うなんて。
先ほどの話を聞く感じだと、櫻尾も母親に憧れたと話しているんだから彼女にこのことを言っても笑わないだろう。けどそれがより恥ずかしさを掻き立てる。笑われるよりいいかもしれないが、俺が耐えられない。それに何より、
「まだ起こしてないしなぁ」
「なにか言いました」
思ったことがついポロっと出てしまった。なにか言わなければ。
「あぁっと、そう。もっと時間を有効に使おうと思ったんだ。今まで帰宅部だったし放課後に時間が余ってたからな。なにかしようと思ってたところに櫻尾が誘ってくれたんだよ。これは渡りに船だとお思ったから俺も入部したんだ。本当だぞ」
櫻尾が怪訝な瞳で見つめてくる。問い詰められた犯人というのは早口になると聞く。まさしく実感中。そうも見つめないでくれ。よく漫画で明後日の方を見て誤魔化そうとするが、まさにそうするしかない。あの黒い影たちは今の俺のような感情なんだろうな。
しかし俺の発言に嘘は入っていない。実際放課後は暇だった。ただ、彼女のあの夕日が差し込む教室の姿を見ていなかったら、確かにここまで付き合ってない。あの、小説というものに打ち込む彼女を見て、俺もこうなりたいと憧れた。今までの燻りが完全に燃え上がり、そして燃え尽きることができるんじゃないかと。
まだ疑っているようだが一応認めてくれたようだ。彼女がここで自身のルーツを話してくれたんだ。俺もいつか話す時が来るのかも知れないな。
「まぁいいとしましょう。それじゃご飯が終わったらもうちょっとだけ片付けましょう。遅くなっても親御さんが心配するでしょうし」
「そうだな」
帰っても誰もいないがな。けれど、確かに余りにも遅くなるのは危ない。俺たちも高校生だ。夜に制服で歩いているとお巡りさんの厄介になるかもしれない。早いこと飯食って掃除を再開しよう。
「ですけどもうこれ以上はやりようがないんですけどね」
「ほうはの」
ちゃっちゃと食べてしまおうと口の中いっぱいに米を掻き込んだから上手く喋られない。一緒に買っておいたお茶で流し込む。
「隣の部屋にまで手をつけ始めちゃうと、辞める時間を逃しちゃいますからね。あとはまとめたゴミを下のゴミ捨て場に持っていくだけですよ」
「それこそ手伝うさ。掃除はだいぶ頼りっぱなしだったんだ。力仕事なら任せてくれ」
「ハイお願いしますね」
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