第4-9話 地雷原ダンス
「すいません。変な空気になっちゃって、ご飯の続きにしましょう」
「お、おう」
……どう頑張っても重い。カツカツと箸が器に当たる音が響く。櫻尾はあまり気にしてないようだが、どうにも箸が進まない。
いや、変に考えていると余計空気を悪くしそうだ。いっそ、無理にでも話しかけたほうがいい。
「にしてもいい天気だな」
「もう夜ですよ」
そうだ。俺のバカ。こんな時間に天気を聞く奴がいるかよ。もっといい話題は、
「そうそう、さっき読んでた漫画なんだけどな、これがすげー面白いの。スポーツものなんだけどな。ところどころにギャグが混じってんだよ。真剣に試合しててもついつい笑っちゃうんだよな」
「あぁ、あれですか。面白いですよね」
よし、食いついた。櫻尾も読んだことあるようだし、ちょっとは雰囲気良くなるぞ。
「キャラクターもかっこいいんですよね。主人公だけでなくてライバル学校の生徒もすごいですし」
「もう連載は終わってるのに未だに根強い人気だよね。二次創作とかイラストもいっぱいネットに上がってるの見たことある」
「女性人気は強いですもんね」
「当時、俺も読んでたらハマってるぞこれ」
「私読んでましたよ。ここで」
ここにあったから俺も読んでたんだ。櫻尾も読んでるだろう。
「お母さんが仕事中はよく借りてました。邪魔しちゃいけないと思って部屋の隅で。ちょうどあそこですね」
指差していたのはさっきまで俺が読んでいたところ。幼かった櫻尾と同じ場所で読んでいたとは。
「ああいう隅っこはなんだか落ち着くんですよね。そこでお母さんの仕事、タイピングとか、紙を擦る音を聞きながらうたた寝もしたり」
「いい思い出が詰まってるんだな」
「はい。それはもう。けど」
なんだか嫌な予感。
「もうあの時は戻ってこないんですよね」
綺麗に地雷を踏みに抜いた。
もう何を話しても櫻尾の地雷を踏んでしまうんじゃないか。黙々と飯食ってよう。
「辰巳さんはその」
今度は櫻尾から話しかけてくれた。話さないのも不自然か。けど、また変な空気にしたくない。今度は慎重に言葉を選ぼう。
「なんで私に付き合ってくれるんですか」
「えっ」
いきなりの質問だった。
「だって知り合ってまだそんなに経ってないじゃないですか。はじめこそ私は辰巳さんしかいなかったから話しかけたりしたんです。そして私が執筆部を作るって言った時だって、本気で断っていれば私はもちろん、梅木先生も誘わなかったと思います。それなのに今まで私と一緒にいてくれる。なんでですか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます