第3-2話 頬杖してペン回し

「んー。にしてもなんにも思いつかないな」

「そんなもんですよ。いきなり話が思いついたら苦労なんてしません」

そういえば彼女はよくメモをとっているんだった。それがネタ帳なんだろう。日頃からネタ集めをしておかないと今回の俺みたいになんにも思いつかないことになるのか。

「辰己さんはまだ何書く、どころか方向性すら決まってないと思います。それはこれからのミーティングで考えていきましょう」

そう言って次の授業の準備を進めていく櫻尾。

困った。ネタを探すとか考えるものだが、放課後に残ることがだ。やることなんて特にないからいいじゃないかと思われるが、いつもと違う一日を過ごすといういことは思ったよりも体力を使った。この間の喫茶店に行った日でわかった。

けど、このままでいいんだろうか、と考えてみる。面倒事には関わらないようにしてきた今までの人生。体力を使わなくていい報告で毎日を過ごし、目の前の出来事をその場しのぎの連続でこなしていく。平々凡々と言えばまだ聞こえはいい。だが、これは無駄に一日を消化していると行ってもいいんではないか。高校生活なんて三年しかない。いまの俺たちには分からないけど、十年二十年立った時にいい青春を送っておたと言えるのか。バラ色じゃないにしても、白色だった、灰色だったなんて思いたくない。

……つみ……

ならいっそ世間で言われているバラ色の生活とやらを送ってみるか? いややめよう。そもそもそんな生活イメージが全くわかない。なんだバラ色って。赤色じゃないのかよ。もっと具体的な色で教えて欲しいもんだ。それならイメージしやすい。今思い浮かんでいるのなんてテニスラケット持った黒シルエットがおほほほ優雅に笑って紅茶を飲んでいる図が浮かぶだけ。絶対違う。こんなの昔の漫画にしか登場しない。実際、みんなはバラ色の生活がどんなもんなんだろう。

……みさん。辰巳さん! 呼ばれてますよ」

「え」

隣から呼びかけられて現実に戻ってきた。櫻尾が教科書を指さしながら慌てた顔をしている。それ以外の生徒も俺の方に視線を向けている。

「どういう状態?」

小声で彼女に聞いてみる。教段には梅ちゃん先生が立っている。そういえば今は現国の授業中だったかも。

「ここです。この段落から音読しろと」

急いで立ち上がる。椅子が大きな音を立てたが、今はそれより早く答えて、梅ちゃん先生の授業をこれ以上妨げないようにすることが必要だ。指示された山月記の一文を読んでおく。

「どうした辰巳。いつにもましてボケっとしてたぞ」

いつもそんな目で見られていたのか。

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