第2-2話 押せ押せばっかりでは流石に受ける

 先ほど頼んだホットコーヒーを飲みながら櫻尾に聞いてみた。

「いままではどんな話を書いてきたの?」

「バトルとか、恋愛とか、SFモノも書いたことあるますよ。ホラー系は挑戦しようとしたんですけど、考えただけで怖くなってやめました。」

「いろいろ書いてきたんだな。それって見せてもらってもいいの?」

「ええっとですね……」

 テーブルにのの字を書いている。恥ずかしいのだろうか。

「いいって気にすんな。ほとんど小説なんて読んだことないからどうのこうの口出し出来ないんだ。どんな感じになるんだろうか気になっただけだよ」

 今度は指が反対に回っていた。

「確かに恥ずかしいっていうのはあるんですけど。それ以上に見せられない理由がありまして」

「どんなのがあるんだよ」

 万が一自分が書くときの話の参考になるかと思うから知っておきたい。

「そもそも完成してないんですよね」

「えぇ」

 全くならなかった。

「今まで書いてたんですが、途中からなかなか筆が進まなくなっていくんです。頭の中で思っていたことがアウトプットができないことが多くて。違う話のほうがどんどん思いついたから次の話を書き始めるから一回後回し、と思っているともう書き始めなくなっちゃってました」

「それでも執筆はしてたんだな」

「はい。小説を書く事は好きですから」

 好きなものをそれだけ続けられるのはすごい。俺は、

「どうかしました?」

「いや、なんにもない」

「暗い顔してましたよ」

「大丈夫だって」

 知り合ってまもない人に話すようなことじゃ無い。これは俺の問題だし。

 お冷を飲み干し、気持ちを入れ替える。

「それじゃもう一個。今はどんな話を書いてるんだ。同じ同好会員として知っておきたい」

「今は何も書いてません。前のやつが行き詰まっちゃってて、そこに転校だったんで一回やめたんです。それに自分が転校生になるだなんて、なかなかないことなので、このネタを大切にしたいんです」

「大切なネタだから使うんじゃないの?」

「そういう人もいるかもしれません。けど私は、ここぞ、という時用に残しておきたいんです」

 そういうもんなのかね。

「だから昨日の公園もすごく助かりました」

「公園? あぁあの時のか」

 あの時は真剣な彼女に圧倒されたな。今、この状況も櫻尾に引っ張られてなっている。この2日間は引っ張りまわされたな。

「いきなり、あんないいシチュエーションに使えそうな場所知られたなんて幸運でした。改めてお礼させてください」

「いいっていいって。気まぐれで案内しただなんだ。気にする必要はないよ」

「私が気にするんです」

 この天丼何回目なのか。もう素直にお礼してもらったほうが楽になりそう。

「わかった。機会があればな」

「そんなこと」

「今は思いつかないだけだって。だから日にちおいてにするだけだよ」

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