第1-5話 脱臼するかと思いました

「聞いたことない部活ですね」

「当たり前だろう。この部活はもう10年近く前に無くなっているんだ。学校のホームページやパンフレットにも載ってない。むしろ櫻尾が知ってることのほうがおかしいんだ」

「昔に聞いたことがありまして。ちょっと入ってみたいと思ったんです」

 ちょっと? という先生のつぶやきは最もだと思う。一部始終しか見ていないが、だいぶ思い入れがあるだろうに。

「まぁいいや。ともかく辰巳が入るから同好会は成立な」

「話を戻さないでくださいよ。俺は一言も入るなんて言ってない……」

「そう言うなって。もうここに書類もまとめたから」

 そう言って数枚の紙束を渡される。そこには部活・同好会立ち上げ資料と書かれた紙と俺と櫻尾の名前が書かれた『入部用紙』があった。

「辰巳くんって言うんだ。本当に私と入ってくれる?」

「えっと……」

「お願いします! ほかに頼れる人がいないんです!」

 たかが部活にここまで真剣になれるのか。なんだか羨ましい。先生の言う通り家に帰っても暇だ。放課後、顔を出すぐらいいいだろう。最悪、席だけ置いておいて、帰ればいいんだし。それに、

「顔を上げてよ。わかった。わかったから。入るよその執筆部に」

 職員室で頭を下げている転校生を前に居心地が悪い。もう入らないほうが面倒くさい。

「本当ですか? ありがとうございます!!」

 上げたばかりの頭がまた下がる。

「それじゃこれで俺は帰ります。ちゃんと宿題も出したんでこれで終わりですね」

 今度こそ帰れる。

「ちょっと待ってください」

 本日2度目の腕の引っ張り。今度は櫻尾だった。

「それじゃあ早速同好会第一回を開催しましょう」

 腕を掴まれたまま職員室を出る。

「失礼しました。ありがとうございます」

「失礼しま

 言い終わる前に職員室を出ていた。いつになったら空腹が抑えられるのか。

「ちょいちょいちょい待って」

「なんです?」

 ようやく足を止めてくれた。でも逃げないようにか腕は掴まれたまま。

「まず逃げないから腕を話してくれないか」

 はっとした顔で、やっと手をはしてくれた。

「まず活動しようにもどこでやるんだ? 今出来たばっかりの同好会に部室なんてないし、どこか代わりになりそうな専門科目の教室はもうほかの部活が使ってるだろう」

「それもそうですね。ただ居残るだけならいいでしょうけど、活動するとなると普通の教室にも使用許可が要るはずです」

「なら今日は解散でいいんじゃないか?」

「いえ、それなら行きたい場所があります! そこでミーティングをしましょう」

 どこに行こうというのだね?

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