第1-3話 カリカリ、シャッシャ、ぐぅ~

 あんなに居心地が悪い時間は初めてだ。視線が針のように刺さるなんて言うけれど間違っている。これは釘を打ち付けられるようにな視線だ。なんなら五寸釘が混じっている。

 もう放課後となればそんな視線に晒されることはなく、気持ちよく地獄から解放される。

「今日はもう終わるが、最後に春休み課題を提出しろ。まさか、まだ終わってないやつはいないだろうな。私の評価に響くようなまねするやつは」

 ここにいるんだよなぁこれが。

「先生、たいへん言いにくいんですが、俺は忘れちゃったんですよね。いや。持ってきてはいるんです。ただ時間が足りなかったというかなんといういうか、気力が足りなかったというか、計画の綿密さが足りなかったんです。途中まで終わらせた課題しかないんですけど、これを提出してもいいですかね」

「良い訳あるか。しっかり終わらせて私のところに持ってこい。それまで帰宅は許さん。まだ昼前だ。時間はたっぷりある。答えを写してでも終わらせろ」

 昨日は家に帰ってから課題を一切せずに寝てしまったんだ。買ったエナジーは冷蔵庫にしまったままにして眠気に逆らうことなくベットにダイブしていた。もうあしたでいいか、なんて思いながら。

 けどやっぱり後悔。終わらせてから寝るべきだったかも。

 授業後に教室にいるやつなんてのはそういない。部活がある奴らは部室で昼飯を食べるだろうし、ない奴らはそもそも学校に残らない。俺も後者になるはずっだたんだ。

「それじゃ俺行くからな」

 ケイも例に漏れず、部活に向かう。

「見捨てないで~。なにか食べ物を恵んでください」

 手を振り消え去っていくケイ。

 こうなれば嘆いたところで何も始まらない。今日は購買もやってないはずだし食堂も空いてない。家で昼飯を食べる予定だったから食べ物持参なし。飯を食べたいなら、この宿題を終わらせなければいけないのだ。

「昨日も空腹で今日も空腹。明日も空腹か?」

 カバンから課題と答えの冊子を開いてペンを走らせる。頭を使わず答えを写すことで少しでもエネルギー消費を抑えるとしよう。

 シャーペンがノートの上を走る。赤ペンに持ち替えた時に転がる。インクが答案を囲む。そしてまたペン先がノートとの摩擦で音を立てる。

 俺はこの音が好きだ。特にペン先の音なんかは聞いていると落ち着いてくる。

 静まった校舎。教室では俺が発するシャーペンの音だけが響く。

「ぐぅぅぅ~~」

 ついでにお腹の音も。

「とっとと終わらせせよう」

 顔を叩いて、もう一度集中。今度は空腹なんかに邪魔されないぞ。クリックるするようにノートをペン先で叩く。自覚している癖の一つ。

「うっし」

 次に時計を見た問には四時を過ぎていた。

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