第1-1話 転校生登場!!(面識有り)

「なんだなんだ。騒がしくないか」

 クラス変えの表を見たあとに自分の教室に足を運ぶ。今年もあいつと同じクラスだ。

「おはようソータロー。どうもある噂が流れているらしい」

「おは、ケイ。前期初日に広がる噂。休み明けの学力テストの答案でもばらまかれたのか?」

 こいつは田原啓二。去年のクラスから何かとつるむことが多い。

「そんなチンケなもんじゃねーよ」

「チンケとは何だ。課題を終わらせてない俺にとっては重要なことだ。チンケってのは購買のメニューが減ったとかのことを言うの」

「それは重大ニュースだ。あの数少ない購買パンがさらに減ったとなると、癒しの昼休みタイムが嬉しさ半減だ。いや、話がそれたな。噂ってのは転校生がくるってことだ。朝練してたら見慣れない子が職員室に向かって言ってな。可愛い娘だったぞ」

 こいつが可愛いって言うってことは相当なんだろう。アイドルの追っかけをしている奴だ。そんじゃそこらの女の子には可愛いと言わない。そんな高いハードルを設定してるのに突撃してくる女の子を俺は去年一年で数人確認している。羨ましい。

「どこのクラスに来るのかまではわかってないみたい。うちのBクラスに来てくれたらいいんだけどね。部活のやつらと購買パン賭けてんだよ」

「可愛らしいもんだな」

「高校生だし。んで、お前はどこのクラスだと思う?」

「パンは賭けないぞ」

「別にいいって。俺の興味本位」

「そりゃ俺も自分のクラスがいいに決まってるさ。お前が可愛いって言うんだしな」

そう言えば昨日の子も転校手続きがどうだか言ってたな。まさかなぁ。春になればそこらの学生がポンポン転校してるんだろう。何人の転校がかぶることだってある。おあるか。けど、

「あの子可愛かったよな」

「なに?」

「いや、なんでもない」

長い挨拶を済ませて席に付く。

まだ始業まで時間があるからか空席が目立つ。窓側の隣の席も空白だった。

時間だ経つにつれ、喧騒が大きくなっていく。そりゃこんなイベントが長期休暇後に訪れるんだ。会話が弾む弾む。

騒がしさが収まったのは始業のチャイムが鳴ってからのことだった。

「お前ら静かにしろー」

担任の先生が教卓につく。

「うめちゃん。転校生は?」

「うるさいぞ田原。ちゃんと先生といえ。私はお前の好きなアイドルじゃなんだぞ」

「知ってるよそれくらい。けどそうもきつい態度だと彼氏もできないよ」

「本っ当に余計なお世話だ」

持っていた教科書で黒板を叩く。びっくりしてみんな静かになる。

ケイほどいう気はないが確かにこの先生は確かにきつい。

「やっと静かになったか。それじゃ噂になってた転校生を紹介するぞ」

一気に教室が騒がしくなる。そしてもう一喝。

「静かにならなくちゃあいつも入ってきづらいだろ。もう少し気をつかえ気を」

「バンバンうるさいのはどうなのか」

「なんかいったか?」

うっかり本心をこぼしてしまった。おかげで鋭い眼光に貫かれる。静かにしていよう。

「それじゃあ入ってこい」

ガラガラと音を立て、戸が開かれる。

空いていた窓から吹き込んだ風によって髪をたなびかせ、緊張した面持ちで教卓に付く。彼女は確かにケイの言う通り、可愛かった。クラスのみんなが息を飲んだのが肌でわかる。

それ以上に俺は驚いた。だって彼女は、

「櫻尾つむぎです。これからの学校生活よろしくお願いします」

昨日会ったばかりだったから。

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