プロローグ3 座板は日焼けて淡い水色
サンダルで出かけたのは間違えだったかな。けど、こんなことになるとは思ってなかったからなぁ
「いきなりこんなこと聞いた私が聞くのもなんですけど、良かったんですか?」
「なにが?」
「見ず知らずの私のお願いなんかを聞いてて」
「いいのいいの。家に帰ってもやることなんてないしね。強いて言うなら春休みの課題くらい」
強いてなんてものではなく、マストでやらなくちゃいけないけど。
「私も春休みの課題は最後に残しちゃうんですよね。やりたいことはどんどんできるんですけど、やっぱり後回しにいちゃいます。今回はいろいろあって課題がなかったんです。おかげでこうやってこれから住む街をいろいろ知れます」
「これから住む? 引っ越してきたんだ」
「はい。さっきも言ったんですけど今日引っ越してきたんです。明日から新しい高校に入るんですけど、気持ちが高ぶってて、入りたい部活もあるって聞いてたのでもう今から動きたかったんです」
「俺なら荷解きしたあとは寝ちゃいそう」
「眠さなんて吹き飛んじゃったんです」
それ以外にもいろんな話をしていたら目的地についていた。
「ここがそう。この途中にある公園。結構な高さにあるから街が一望できる。それに何より」
「綺麗……」
沈んでいく太陽を見て彼女が呟いた。
「そう。ここが俺のお気に入りスポット。この先にはもう数件しか民家がないから普通の人はこのあたりまで上がってこない。車の音とかしないし、周りの人に気にする必要もない」
彼女はフェンスまで歩いていく。ゆっくりとした歩みはまるで夕日に連れ去られていくようだった。
「お気に召したかな」
振り返った彼女は眩しかった。
「大満足です。ありがとうございます!!」
まだ見ていたいのか、もう一度太陽を見ている。
「もう少し時間がかかりそうかな」
昔は良くここで遊んだものだ。あの時と遊具の配置は変わってない。時たまここには訪れていたけれど、気分転換にちょっとブランコに座るだけだ。改めて触ってみるとよくわかる。サビはこんなにひどくなかった。ギシギシとなるブランコに座って彼女を待つとするか。
「ん? 何してるんだ」
夕日を見るだけでなく、どこにでもありそうな遊具や、それどころか植木にすら興味を示している。そして頷きながらメモをしていた。さっきまでの嬉しそうな表情から一転、真剣な眼差しをしていた。
邪魔しちゃ悪いし、暇つぶしにスマートフォンでも。あ、家に置いてきたや。持ち物なんてカップ麺とエナジードリンク、あと財布。
現代っ子の俺はいつもなら飽きたら帰っている。けど今は……
「これは使える。これもどうかな? とりあえずメモメモ」
彼女を見ているだけで、いつの間にか太陽は完全に沈んでいた。
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