169,山側を巡る旅
茅ヶ崎で迎える朝に何か特別なものがあるかといえば、そうでもなかった。
結局みんな揃ってリビングで寝落ち。起きたら10時過ぎ。
マンションの立地が裏道、猪苗代の実家も裏道。
強いて言えば、窓を開けたときの空気がひんやりしていなくて、ちょっと蒸していた。
そのくらいのこと。
生活関連では、水道水がぬるい、苔の臭いがする(戸建てや手入れの行き届いた賃貸住宅ではそんなこともなく普通に飲めるらしい)、テレビが1から12まですべてのチャンネルが映る。
スマホの電波はまあまあ良好。5Gは沙希ちゃんたちが住む地域は対応、ここ高田ニュータウン周辺は今後対応予定らしい。
とりあえず、環境的にはそんなに困ったことはない新生活の始まりだ。
◇◇◇
はてはて、起きましたフルーツの香りがする夢のような女子。ほか三人は既に起きていた。だが朝食の準備などはしておらず、さっそく非常食のパックごはんに手をつけた。ヤカンがあったので味ひとすじな会社のさけ茶漬けに。まみちゃんが子どもだったころ、
32インチのテレビはノンストップな情報番組を映している。
それを見ながら身支度をして、私たちは部屋を出た。
「で、私が呼ばれたってわけか」
マンションの前に見覚えのあるピンクの軽自動車。まみちゃんが宝くじ3千円当選記念に3万円で買った訳アリっぽい中古車。私たちは五人だと狭くて窮屈なそれに乗り込んだ。
「やあまみちゃん、悪いね早朝に」
「そうだなあ、新学期が始まる前だが教師は出勤日なんだ」
「じゃあなんでここにいるんだよ。っていうかもう昼だし」
右側後部座席のまどかちゃんが言った。真ん中につぐピヨ、左が巡ちゃん、助手席に私。
「まどか、人生はノブレス・オブリージュの範囲内で好きに生きていいんだ。いま私は授業をする必要がない。事務仕事は溜まっているかそもそもやる気がない。なら不慣れな街に越してきたばかりの迷える子羊ちゃんの手助けをするのが私にできる最大の社会貢献だと思わないか?」
「それは言えてるね。じゃあきょうはよろしく」
「よ、よろろすおなしゃっ……」
巡ちゃん、噛んだ。
「おう、よろしくなっ」
まみちゃんが身を
裏道を出たクルマは一先ず周辺を巡る。医院、歯科クリニック、ガソリンスタンド、信用金庫、生活に必要な施設を車中から眺める。少し離れたところに市立病院があるのでそちらにも行き、なんとなくこっちの方向にあると教えた。
この高田ニュータウン、ドライバーには要注意箇所がある。
お弁当屋さんや不動産屋さんがある高田ニュータウン入口交差点と、その50メートルくらい北にある
新旧の道路を複雑に接続し、事実上一つに纏まっているこの交差点は裏道を二つ含め七方面へ伸び、路線バスが通る一里塚北通りから小出県道へ入るルートは右左右左の徐行必須な急カーブを十数秒で繰り返す。
国道1号線からここまで一直線の道路はまみちゃんが小さかったころにはなかったらしく、更にその先の直線道路は私たちが小さかったころにもなく、いつの間にかできていた。
「みっ、皆さん、地域行事の練習で忙しい中、ほ、ほんとにありがとうございますっ……」
いつの間にか敷設された新しい道路の目の前にある牛丼屋の横を掠め、鶴が台団地の脇を北へ進んでいるとき、巡ちゃんが頭を垂れた。
「いいっていいって、睡眠時間だけはバッチリ取るから」
食う寝る喋るが健康の秘訣。なかなかできちゃいないけどね。
「あまりこっちのほうには来ないから、気分転換になるね」
つぐピヨがニコニコ。
「山側でよく行くのは
と、まどかちゃん。
確かに、知らないわけじゃないけどあまり来ない茅ヶ崎の山側。遠方からの観光客に心底勧められるスポットがあるかといえば、うーんというのが正直なところ。
ニッチなニーズであれば、登夢道のほかにも評判の良いラーメン屋さんがたくさんあったり、歴史マニアには大岡越前ゆかりの
茅ヶ崎の歴史を深く知りたい人は、
あとは……里山公園の奥で9月下旬ころに見られる彼岸花と黄金の稲穂のコントラストがマジ絶景。アゲハチョウとかアキアカネが留まっていれば尚映える。
これに関しては遠方から来て見る価値アリだと思う。
里山公園には森林の中に広大な田んぼがあるのも、建物に囲まれたところしかない街の人には癒しかもしれない。
ざっくり言うと、そういうニッチな部分を除けば周辺住民が遊びに行くエリアというのが、私のあくまで個人的な山側の印象。
クルマは
数分走って東海地方を中心に展開する、この辺りではレアなスーパーマーケットの前を通過、
「疲れたから一旦休憩だ」
ということで、里山公園で一旦休憩。
はてはて、ここで何かあるか、何もないか、行ってみなけりゃわからない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます