49,つぐみと武道の初デート

 八重桜も散ってしまったちょっと寂しい日曜日、きょうは武道くんとの初デート。


 どういう服を着て行けばいいのかわからなくて、自室の姿見の前で2時間悩んだ結果、いつもの白いワンピースを着て行くことにした。


 朝9時。ワンピースはだと自転車には乗りづらく、私はバスで駅に向かった。昨夜は緊張して3時間しか眠れなかったから、少しだけ体力を温存できた。


 待ち合わせは、改札口前の広く取られたスペース。背後に駅ビルのファッションショップがありガラス張りになっている。そのお店には中央部の駅ビル出入口に回らないと入れないので、駅で待ち合わせをする人はだいたいこのスペースに滞留する。


 バスを降り、1列しかない小さなエスカレーターに乗ってコンコースに上がる。エスカレーターに沿って窓ガラスがあり、駅南口前の街並みを見下ろせる。並行する広めに取られた階段の壁面には、白地に青を基調とした、四角や丸の図形アートが描かれている。海をイメージしているらしい。


 うぅ、緊張する。武道くん、もう待ってるかな。


 ドキドキして、エスカレーターを降りた。わざと左前方の観光協会に視線を向けた。


 でも、たくさんの人が行き交う駅だから、よそ見していると人にぶつかる。


 なので私は、視線をすぐ前に向けた。


「あっ」


 いた。


 大きいから、とても目立つ彼。そんなにお洒落な恰好はしていない。というか可もなく不可もない、ジーパンと白いポロシャツ。


「おはよう、武道くん」


 身体は大きいけれど、声をかける度胸はどちらかといえば私のほうがあると思うので、私から声をかけた。


「お、おはよう、つぐみちゃん」


 ううう、何気に初めての名前呼び。


 ラインでは妄想していたけれど、口に出すとなんだか恥ずかしい。何気なく、さらっと呼んだつもりだったのに、なんだかもう、頭が沸騰してどうにかなっちゃいそう。


「で、電車、そろそろ来るみたいだね」


「お、おう、特別快速だ」


 初めて二人で改札口を通り、初めて二人で電車に乗った。


 そこで気付いた。


 電車の席はいくつか空いていたけれど、武道くんは身体が大きいから他の人を気遣って着席しない。電車の座席は私くらいの小柄な人にちょうど良いピッチになっているから、武道くんが座ったら、隣の人も、その隣の人も圧迫されてしまう。


 なので私だけ、座らせてもらった。


 シートピッチを広げて大柄の人にも座りやすい車両を開発したらどうかなとも思ったけれど、そうしたら着席定員が減ってしまう。難しい問題だ。


 自分とは異なる立場になって考えると、思わぬ発見があるんだな。そう思いながら、轟音で颯爽と駆け抜ける電車に揺られていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る