高校2年生12月
2,夢とハッピーが届きますように!
「あれれー、おかしいなー、今年も何も変わらなかったぞー」
深夜の自室、マンションの中心で虚しく響く独り言。
元旦の誓い虚しく、気付けばほぼ一年経過したクリスマスイブの日曜日。
今年一年を振り返ってみる。
何かするぞと意気込んで結局何もしなかった原因は何か。
まずは小学生時代からの課題だった『宿題を早く片付ける』という項目。それをどうにかしようと思った。だめだった。
日曜日以外は毎日部活があって慢性的な疲労が溜まっている。これが動きを鈍らす大きな要因だ。軽く混乱するほど酸っぱいクエン酸の粉を水に溶かして飲んだり整骨院に通ってからだを軽くしようと試みるも思うようには行かなかった。ただし、足腰の痛みは改善された。
次。気力の問題。お茶やコーヒーを飲めば頭が冴えて動く気力が起きるかなと思うもそこまでではなかった。ただし、飲まないよりはずっとマシ。
朝練だけの土曜日やオフの日曜日は、まだまだ時間があるからと重たい腰をテレビの前にずっしり構えていたら瞬く間に夜になるという時間早送り魔法を性懲りもなく発動し続けた。
次。ようやく腰を上げ、一日一問でもいいから解こうと机に向かうも難問にぶち当たり玉砕。これはやる気を根こそぎ削がれた。
そんな感じでめくるめく季節は過ぎ去り、こんな暑いのに冬なんて来るのかなと、じっとしているだけで汗の雨を降らせた日々をつい先日のように思い出しているクリスマスイブ。
ほとんどの友だちは彼氏とデート。全員じゃなくて良かった。私はスマホ片手にベッドで寝そべりごろごろ体勢を変えながらポテチをバリバリ、一人パジャマパーティー。さっきお父さんお母さん、中2の弟と家族揃ってテーブルを囲みチキンといっしょにフライドポテトを食べたばかりなんだけどね。ショートケーキも食べた。
タイムラインにはどこぞのイルミネーションの写真や、量少なめの上品な料理の写真がどっさり。彼氏の存在を主張するように対面に同じ料理の皿とテーブルに這う女子とは思えないがっつりした両手。手だけ写ってるとか心霊写真ですか?
いずれの写真も投稿は数時間前。いまごろみんな何してるんでしょうね。
家族と過ごすクリスマスも悪くないよ?
恋愛にかまけて家族と過ごす時間を疎かにしたらいけない。いつ誰に何が起きるかわからない。それは地震大国の日本人ならよく身に染みているはず。地震だけじゃない。事故、急病、その他色々。いつ家族と会えなくなるかわからない。自分だけ旅立つかもしれない。
それを気にし過ぎたら何もできなくなるから平穏な日常が続くと仮定して、高校、専門学校、大学のどれかを卒業して社会人になったら、勤務地によっては一人暮らしが始まる。そしたら帰省は年数回になるから、やっぱり家族と過ごせる時間はけっこう少なかったりする。
スマホの電卓アプリを立ち上げた。
年末年始、ゴールデンウイーク、お盆の年3回、4日ずつ帰省するとしたら年間12日。両親の寿命が残り40年と仮定すると、会えるのは残り480日。つまり1年4ヶ月弱。独立してから会える日はたったこれだけ。
現在高校2年生のクリスマスイブを迎えた私の1年4ヶ月前といえば、1年生の夏休み終盤。
え、マジ? こんなもんなの? 計算してみてびっくりだよ。
うわあどうしよう。私まだこれといった親孝行ができてない。
こういうことを考えたとき、お父さんの言葉が突き刺さる。
「いつか孫を抱ける日が待ち遠しいな」
お父さん、孫っていうのは一人じゃできないんだよ。コウノトリが運んでくれるわけでもないよ。
沙希が健康で生きていてくれるのが一番の親孝行と言ってくれそうな気もする……。
それでは私が納得できないから、孫を抱かせるのが両者納得の親孝行なわけで。
ていうか孫はまだ気が早いよお父さん。とりあえず青春したい。彼氏欲しい。
そんなことを思ってたって、ポテチを食べてるだけじゃ何も起きない。もちろんタイムラインをスクロールしてもその場限りの退屈しのぎにしかならず、発展性はない。英単語の暗記でもしていたほうが脳の刺激になるし、出会いの可能性を世界に広げられると思う。いまはやらないけど。十中八九明日も明後日も。
私のライフスタイルは、朝起きて学校に行って、陸上競技部で朝練して、授業受けて部活して、たまに大会や記録会に出る。短距離選手の私は百メートルを最速13秒2で駆け抜けた。女子としてはまぁまぁ速いほう。
体育祭のリレーでは怒涛のごぼう抜きでクラスをビリからトップに引き上げ、我ながらかっこいいと思ったし男女ともに私を絶賛したけど、だからといって誰からも告白されなかった。
悪ノリした男子が胴上げを始めて、疲れたからって落っことされたときの心身の痛みは生涯忘れ得ない。
最初は威勢良く私を宙に舞わせたくせに、5回目くらいから「あー疲れてきた」「俺も疲れた」「ギブ」とか言って逃げやがった。
女子のからだのあちこちを触っておいて最後は疲れたから落っことすとかマジ有り得ない。誰か一人でも受け止めてくれたらお姫さま抱っこのチャンスだったのに。童貞だったらマジ最高のシチュエーションだったのに、どうしてそれをみすみす逃すかな。
でも、好きでもない人にあちこち触られるのは、いまになって思えばなんだかなだ。
あのときはぶっちぎった快感で興奮してたし、我を称えし平民どもの崇拝が最高に心地良かったからあまり気にならなかったけど、どさくさ紛れで完全にセクハラなとこも触られた。あれは誰だったんだろう? 誰でもいいや。
男子の愚行に女子たちは「キャー最低ぎゃははははー」みたいな感じでブーイング(笑)。
そっか、私に恋心が芽生えない理由がわかった。
学校の男子はガキばっかりなんだ!
後ろから猛ダッシュしてきてスカートめくったり胸とかお尻を触るエロガキと変わらないんだ!
実際あいつら、通学路で強風が吹いてなんとかさんのパンツが見えたとか、スマホゲームの話とか、ラーメンとか漫画とか。小学生でもしそうな話ばっかりしてる。私もラーメンと漫画は好きだけど。中華そばも家系も、少年漫画も少女漫画も。
ちなみに私、茅ヶ崎市北部の
とにかく、顔や体型が違うだけで中身はみんな同じに見えて、悪い奴らじゃないけど付き合うにはちょっとって感じ。
では私はというと、足が速い以外は特に何もない。他人のことを兎や角思うけど、自分も指して変わらない。
このまま4百メートルトラックをぐるぐる走り続けるみたいな人生が、ずっと続くのかな?
大人になれば男子も落ち着いてきて、対等な精神レベルで恋愛ができるようになると思う。そう高を括っているうちにどんどん歳を重ねて、周りはどんどん結婚して子どもができて、気付けばアラフォー。
やばいやばいそれはやばい。孤独死確定ルートじゃん。
でも、落としどころを誤った下手な妥協は良くない。
世間を見渡してみれば、恋人ができて結婚して、しばらくはラブラブな日々が続くけど、いつしか愛情が薄れ、パートナーの存在を邪魔に感じるようになるなんて話をよく聞く。そうなってしまったら、誰より我が子が可哀想だ。すべての家庭が円満で、互いを尊重し、違いを認め合えたなら、きっと世界はいまより平和になると思う。とりあえずイジメはぐんと減ると思う。
スマホのバッテリー残量が15パーセントになったので、ベッド脇の延長コードに差し込んである充電器に接続。
そろそろ日付が変わる。サンタさんがソリに乗って空を飛び回る時間だ。早寝をしても私の枕元にプレゼントは届かないけど、明日は朝練があるから眠ろう。
枕元に置いてあるリモコンで照明をオレンジにして瞼を閉じると、スマホをいじった影響で闇に光が飛び交った。鼻でゆっくり息を吸って、一気に吐く。意識が少しだけ遠退いて、窓の外から鈴の音が聞こえてきそうな気がした。
世界の子どもたちに、夢とハッピーが届きますように。
私にも、私にも! 夢とハッピーが届きますように!!
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