第4話 夜風と男

 神田です。なぜ俺がこうして話しているかというと、隣の新里が何やら起こすに起こせないほど気持ちよさそうに寝ているからです。……ですますってのはやりづらいのでここからはいつも通りしゃべりますね。んん”ッ。結論から言うと俺はたぶん食われた。いいや、半々だ。なぜならいつもと変わらない朝を迎えたってだけで、確信めいたものがないからだ。早速部屋の様子を観察して、昨日と変わったとこがないかを調べてみようと思う。


 ・窓

まずは「入り口」のチェック。獏がバクと同じように四足の獣と仮定。足跡などを調べる。……なし。あえて窓のへりにホコリを貯めたままにしておいたが、足跡は見られない。他にも匂いや毛の痕跡はなし!次。


 ・動画

言いたいことはわかる。まずはこっちをチェックしろって言いたいんだよね?でもこっちの身にもなってほしい!23時から朝7時までの間合計8時間の動画を隅々までチェックするって労力をさ!なんか手がかりがあったらいろいろ絞れるかもって思ったの!……文句はこれぐらいにして動画を早回しで見よう。はぁ……。


2020 1/24 23:46


いつも通りの部屋。あ、真っ暗だけど専用の暗視スコープを接続してるから何かが動いたらその変化はわかるよ。表情や文字まではわからないけどね。


2020 1/25 00:45


夜風が出てきた。ここであることに気づいた。窓、ちょっと開いてるじゃーーん!いや、確かにカギは空けておいたけど。さっき窓のへりを確認した時若干ホコリが減ってる感じはしたけども目に見えて変わったわけじゃなかったから気づかなかったー。やばいな~、やらかした。でも待てよ?ってことは足跡が風でならされた可能性も出てきた。


2020 1/25 02:13


ピッ。動画を止めた。これは……すごいことが起きていた。入り口の窓だ。想像通り奴はそこからやってきた。他の窓を物色しつつ、開いている窓を見つけると飛びつくように窓に手をかけ、音をたてないようにゆっくりと忍び込んできた。人間が。


「嘘だろ……。」


まさか、まさか!なんてタイミングだよおい。よりによって鍵を開けていた唯一の日に!ここは二階だけど水道のパイプが通ってるからそこからベランダに登ってきたのか……。くっそ!まあいいや。こっちには証拠映像が残ってる。顔まではわからなくても背格好はわかる。警察に届けてさっさと捕まえよう。


ピッ。動画を再度再生する。


——さぁいったい何を盗みに来た?


男は何やら慌てふためいた様子だ。しきりに入り口のほうを振り返り、そわそわしている。何やら落ち着かない様子だ。


——なんだ?やけに挙動不審だな。被害者が言うのもなんだが、泥棒ならさっさと金目の物を物色して早々に立ち去るべきだろう。俺たちが起きるのを警戒してる?いや、入り口の方ばかりを気にしてる。なんなんだ?


男は数分間うろうろと何かを見るでもなく歩き続けた。そして、男がカメラの隠し場所の本棚に近づいた時だった。


——ん?なんか、若い。若すぎる。中学生だ。背格好は中学生にしては高めだけど髪型は如何にも中学生といった感じの短髪で整髪料は使ってない。この距離だと若干表情もわかる。何かにおびえてる?


とてもじゃないが俺にはこの子が泥棒しに来たとは思えなくなっていた。しかし、なぜこの部屋に忍び込んだのかという問題には答えを出せずにいた。

男の子はしばらく歩き回った後、二人の眠るベッドの下に潜り込んだ。


いや。


待て待て待て。


「えーッ!?」


ベッドの下を思い切り覗き込むと、そこにはうずくまった中学生ぐらいの少年が一人泣きそうな顔で震えていた。


少年「あ、あぅぅ……。」


神田「……一旦、一旦出よう。」


そう言うと、神田は部屋を出てリビングの方に駆け下りた。

しかしすぐに階段を駆け上がった。


神田「紅茶飲める?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る