第2話 夢食いバク
新里「夢ってさ、絶対に覚えられないようにできてるって知ってたか?」
神田「いやいや、俺覚えてるけどな~。今朝は誰かが家に侵入してきて、命からがら逃走するっていう夢を見たぞ。」
新里「いやいや。それは、朝目が覚めた後自分なりに整理した【夢まとめ】だろ?」
神田「あ~。まあ言われてみればかなり整理したかもな。」
新里「そう。夢って場面場面が急に変わったり、見たことない街で暮らしたりするから、理解できずに大半は忘れるんだよ。そして、朝目覚めたらわずかに残った記憶を縫い合わせて一つの夢を見たんだと錯覚するわけだ。」
神田「たしかに、追い回される夢だけで7時間も尺使うわけないもんな。」
新里「フルで追い回されるのはカルロスゴーンぐらいだろ。」
神田「急に時事」
新里「つまり、夢の大半は未知の世界なわけだ。」
神田「なるほどね~……。あのさ、今の話【夢食いバク】の仕業ってことも考えられない?」
新里「夢食いバク?って、人の夢を売って生計を立ててるっていう?」
神田「いや夢を商売に使ってるのはソプラノのネズミ。」
新里「皆さんご存じの。」
神田「そう、近年値上がり中の。」
新里「夢レートはあれ下がったことないからね。」
神田「自分の夢現金化できるなら早く教えてほしい。」
新里「そう考えると夢食いバクは穀つぶしだな。」
神田「お、脱線したと思ったら戻ってきた。」
新里「バクってのは昔から夢を食っちまうっていう伝承があるよな。」
神田「不思議なもんでね食われた方は食われたことに気づかずにすっぽり夢だけがなくなるというね。」
新里「そんなことある?」
神田「それは俺も思った。」
新里「気づかないわけなくないか?蚊でさえ血吸い取ったあとかゆくなるんだぞ。で、一方バクが食べるのは夢だろ。夢ってのは脳の前頭葉で発生している。おでこのちょうど延長線上だな。血管傷つけて『かゆい』って感じるのに脳の中枢神経系ほじくり回してノーダメージっておかしいだろ。」
神田「いいや、案外不思議じゃないかもしれない。いくつか反論の余地がある。」
新里「ほう。」
神田「一つ目だが、おそらく自然界では何らかの痛みをごまかす手段としてかゆみを利用している。新里、蚊は主にどこを刺す?」
新里「腕とか足とかだな。」
神田「そう、肌の露出が多い部分を狙う。肌が出ているということは防御が薄いということだ。対して頭はどうだ?血管をガードする頭蓋骨や髪の毛があるだろ?つまり防御力が高い。」
新里「防御力が高いからかゆみはないってことか?」
神田「いいや。わずかずつかゆみは蓄積されていくんだよ。すると歳をとるにつれてじわじわと頭皮をかゆみが襲ってくる。おっさんになればなるほど頭皮をかきむしる。そして、人はハゲる。」
新里「ハゲはバクのせいだったのか……。」
・ハゲは夢食いの蓄積(神田
神田「ちなみに一番ハゲるのはO型だ。」
新里「個人差確かにあるな。」
新里「でも女子はあんまりハゲてないイメージじゃないか?」
神田「女子の夢はあんまり吸い取らないから。」
新里「なんで?」
神田「メスのバクしか夢食わないから。」
新里「蚊じゃねーか。おれの蚊をフルに活用してんな。」
・メスのバクしか夢食わない(神田
神田「二つ目、ポケモンで言うと夢食いはエスパー技だ。」
新里「ポケモンとか言い出したら終わりな気もするが。」
神田「何らかの超能力でバクは夢を吸収してるんだよ。だから脳はダメージをあんまり受けない。」
新里「まあ仮にそうだとしよう。夢食いの方法なんて見当もつかない。」
神田「だから夢食いバクはいる。」
新里「いるとは言えない。今わかったことは限りなくいないってこと。」
神田「でもゼロとは言い切れない。新里、教室で議論してもバクは現れないぜ?」
新里「現れないぜって、逆にどうやったら現れるんだよ。」
神田「そんなの決まってる。ごちそうを用意して待つのさ。」
神田はおれを家に招いてくれた。今晩、彼の家に泊まることとなった。夢食いバクが現れるのを待つのだそうだ。全く、もういないと決まったものなのに。とも考えたが、哲学者というものは閉じこもって考えるだけで現実を見ようとしないと思われるのも癪なので、話に乗ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます