鑑識の鋏塚君の事件ファイル 最終章~第一章~
鑑識の鋏塚君の事件ファイルシリーズ
最終章~第一章~
『湯葉県警秋庭署よ永遠なれ!』Page1
それはクリスマス・イヴの朝7時のことだった。
『湯葉県警秋庭署の皆様にプレゼントを設置しました。地域の皆さん諸共爆散していただけましたらこれほど嬉しいことはありません。このメールが開かれてから24時間後に起爆します。お気をつけて♪Merry Crisis and a Happy New Fear.〈危機おめでとう・新しい恐怖に幸せあれ〉』というメールが湯葉県警全域に一斉送信された。
これに対して湯葉県警上層部は、
「クリスマスの愉快犯の嫌がらせだろう。」
と、どこか他人事の様に呟き秋庭署へは、
「念のためくれぐれも注意するように秋庭署長に厳命する。」
そう言っただけで、何ら応援などを送るつもりもない有様であった。それもその筈クリスマス・イヴは猫の手も借りたい程の忙しさを警察にもたらすのだ。勿論警察以外の人だって多忙を極める時期である。とにもかくにも各地で安全を確保せねばならないのだ。要するにお偉いさん方は『近隣住民に被害が出ないよいうに迅速に秋庭署内で処理しろ』と言いたいのだ。
「陸上自衛隊長師野駐屯地へ爆発物処理班の応援を要請するように自治体に働きかけて!」
佐波読課長の一声と共に秋庭署と近隣住民の命をかけた爆発物処理のタイムアタックが始まったのである。
(鋏塚新次郎<ハサミヅカシンジロウ>だ。本文へ戻るぞ。)
「鑑識課の鋏塚巡査長であります!警察犬による爆発物等の発見に努めます!」
俺はそう言ってから刑事課を後にして鑑識課に合流して鑑識課長指示のもと警察署内と念のために敷地内の全域を含めた外周の取り調べにかかった。
【秋庭署爆発まで21時間58分】
(つづく)
『湯葉県警秋庭署よ永遠なれ!』Page2
秋庭署一の嗅覚の持ち主とされる『ギンセイ号』を相棒に秋庭署の外周を捜索していると、ガレージにさしかかった所で手綱を引っ張るかの様に『ギンセイ号』が足を止めた。
「何か見つけたか?」
方々探し回ってからようやくそう言って俺はガレージに止めてあるパトカーの裏側を覗き見た。ビンゴだ。車両の裏側に爆発物らしき物体がカウントダウンしている。すぐさま鑑識課長に報告した。
「警ら車両ガレージにて複数の時限式爆発物と思しき物体を発見。」
「タイムリミットまではあとどのくらいだ?」
「残り15時間を過ぎました。」
「陸上自衛隊の応援は後5時間ほど到着にかかるそうだ。普段なら2時間弱でつくらしいが、一般道まで渋滞が発生して緊急事態の交通整理等に時間をくわれているそうだ。ウチにも爆発物処理班は居る。頼むぞ!」
秋庭署爆発物処理班は警ら車両ガレージへ大急ぎで向かった。仕上げは自衛隊の助力を得ることになるかも知れないがここは俺たちの・私たちの『秋庭市』だ。そんな空気が秋庭署内に溢れて署員の士気が高まった。
「我々の秋庭署だ!テメェのシマも守れんで自衛隊にお願いしますってわけにはいかんだろうが!」
元組対四課の鬼瓦警部はそう吠えて署員を鼓舞した。
「不審な物体を見つけたら爆発物処理本部へ情報を送れ!下手に触るなよ。時限式のは尚更だ。」
入交警部はそう忠告し署員各位に佐波読課長からのメッセージを伝えた。
秋庭署全体で署内のローラー作戦が始まろうとしていた。
【秋庭署爆発まで12時間16分】
(つづく)
『湯葉県警秋庭署よ永遠なれ!』Page3
署内のローラー作戦開始からおよそ4時間。隅から隅まで調べたが、どうやら署内には爆発物らしきものは無いようだ。
しかし、ガレージのパトの爆発物は完全に固定化されており引き剥がすことは不可能であった。
「このままパトごと安全圏で爆発させましょう。」
佐波読課長はさらりと言ってのけると自ら爆発物車両に乗り込み秋庭山の麓へ向かった。もしアクセルを踏むことで起爆する仕組みならばこの場にいた者達はたちまち黄泉送りになるところであったがその辺は運が良かった。
入交・鬼瓦・土井・佐古田も続き1人1車両で5台と俺(鋏塚)の運転する撤収用ワゴン車が秋庭山麓へと向かった。
「ここはいいからお前は刑事課の応援にでも行ってこい!」
そう、上司に言われ撤収用車両の運転役を引き受けたのだ。
「ありがとう。本当にお礼を言うわ。刑事課の仕事にかり出してごめんなさいね。」
「いいえ。俺が自分の意志で志願したことですから。」
クリスマス・イヴの混雑が予想される中で佐波読課長は先読みしていたかのように事前に交通規制などを指示しており行く手を阻む一般車両はなかった。
ゴミの最終処分場へと爆発車両を向かわせた佐波読課長は、
「車両を処分場に置き去りにして、撤収用のワゴン車に乗って!早く!」
皆一斉に乗り込んだ。その時、大爆発が起きた。あと数秒違いで自分たちは爆散していたかもしれなかったと思うと身も凍るように感じた。(つづく)
【秋庭署爆発回避】
『湯葉県警秋庭署よ永遠なれ!』Page4
「何はともあれですな課長。」
鬼瓦警部は感慨深くしみじみと今回の事件を振り返る様に佐波読課長に語りかけた。
「課長とお前だけじゃないだろうが鬼瓦!俺はともかく土井君・佐古田君・鋏塚君たちも労ってやれんのか?課長も他人事の様に聞いてないで何とか言ってください!」
「鬼瓦警部、入交警部は酒が入ると説教する癖でもあるのかな?」
「あれは心の底から酒を楽しんでる時のアイツの癖ですな。くどくどしてないでしょう。絡み酒とかとは違う類なので気にする必要は無いでしょう。ただ、アイツの言い分はもっともです。あとの3人も褒めて労ってください。
佐波読課長から労いの言葉をもらい、署長から表彰された。
「表彰状よりも日本銀行券の諭吉さんが欲しいなぁ…」
土井・佐古田の2人がそう呟くと、
「滅多なことをいうな。笑い事じゃなくお前らの今後に影響するぞ。」
「アハハ…それは笑い事じゃないですね…」
土井・佐古田は萎縮気味になりながら爆発物事件解決の表彰が簡単に行われ終了した。
「秋庭署よ永遠なれ。」
署長がそう言って場を締め括った。(おわり)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます