鑑識の鋏塚君の事件ファイルNo.8『俺は鑑識課の人間ですよ?』
鑑識の鋏塚君の事件ファイルシリーズ
鑑識の鋏塚君の事件ファイルNo.8
『俺は鑑識課の人間ですよ?』Page1
俺は鋏塚新次郎<ハサミヅカシンジロウ>鑑識課の巡査長だ。入交さんをはじめとする俺の周りの人たちはどういう目で俺を認識しているんだろうか?鑑識課のある同僚に言われた。
「よう!鑑識刑事鋏塚!」
そう言われた時に俺は今中途半端な立場にあることを今さらながらにまざまざと知った。このままではいけない。そう強く感じた俺は鑑識の鋏塚であることに意義を見出すことにしたのだが、この強い(?)決意はいつも通りの『鑑識刑事』となってしまうことであっさりと粉砕されてしまうのだった。我ながら情けない。
毎回鑑識課の業務の傍らで刑事課の協力要請に応じる際には「俺は鑑識課の人間ですよ?」というポーズはとり続ける必要がありそうだ。そうでもしないと自分を完全に見失いそうな気がしてならないのだ。
今までも人事異動の話がなかったわけではないのだが、強くお願いしてなんとか鑑識課に置いてもらっている現状もある。勿論のことだが語られていないだけで鑑識課の仕事もキチンとやっている。何も心配いらないはずだ。
今日もとある現場でのことだった。
「お~い。鋏塚君ちょっとだけ手伝ってくれんか?」
「入交さん、俺は鑑識課の人間ですよ?刑事課の都合でホイホイかりだされてたら本職に支障があります。他をあたってください。」
その時、俺と入交さんの間に冷たい空気が流れた。(つづく)
『俺は鑑識課の人間ですよ?』Page2
「入交さん、俺は刑事じゃないんです。あくまでも鑑識の人間です。今までいろんな事件に協力しましたけれどその代償として俺が得たのは『鑑識刑事』という蔑称による嘲笑だけですよ。」
「いや、しかし」
「しかしも何もない!このままだと鑑識課から移動させられてしまうかもしれない。その責任を入交さんはとれるんですか?」
「わかった。鋏塚君がそう考えるなら他をあたるよ。裏を返せば鑑識課から異動されない保証が欲しいんだろ?やってやるさ。」
「やってやるさってどうやって?いくら入交さんでも人事にまで口は出せないでしょう。」
「ああ、決定力のある口出しは出来んよ。しかし嘆願くらいはできるぞ。効果は保証しかねるがな。」
「そこまでして鑑識の仕事をそっちのけにしてまで俺に刑事課の仕事を手伝わさせるんです?」
「一緒に仕事をしてて楽しいからじゃいかんか?」
「いけなくはないですけど、それは入交さんの理屈でしょう。俺は鑑識課の人間ですよ?本業をおろそかにしていると見られているから『鑑識刑事』なんて言われるんです!」
「それなら、鑑識課の責任者に今度からことわりをいれておくようにするよ。それでいいかな?」
「上司の承認があれば出向きますけどほどほどにして下さいよ。」
「ああ、わかった。改めてよろしくな!鋏塚君!」(おわり)
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