鑑識の鋏塚君の事件ファイルNo.3&【スピンオフ】入交警部の捜査手帳

鑑識の鋏塚君の事件ファイルNo.3&【スピンオフ】入交警部の捜査手帳

『デカイ貴金属強盗殺人事件と破壊された霊柩車の処分費負担者失踪事件?』Page 1 Side 鋏塚

 それはある晴れた昼下がりの市場へ続く道に子牛が運ばれて行きそうな空模様の穏やかな日だった。俺は【鑑識の鋏塚 新次郎<ハサミヅカ シンジロウ>27歳 一応巡査長だ】。

 その日、非番の俺はアキバ ブランニュー デパート【この街で唯一の百貨店だ】で柄にもなくプラチナジュエリーを眺めていた。こんなものを贈れる彼女がいたらもっと仕事に張りが出来るんだろうなぁとぼんやりと妄想しながらその場を後にした。

 その日はプラチナ貴金属大商談会が開かれていたらしく大量のインゴットが持ち込まれており厳重な警備が敷かれていた。丁度その裏側の敷地内ではメモリアルセレモニーホール向けの霊柩車の展示即売会が開かれていたらしく、景気のいい話と縁起の良くない話がニアミスという関係者の神経を疑うミスマッチぶりが際立っていた。ここまでならただの神経を疑う商売どまりで事件にもならないのだが悲しいかなやはり事件は起きた。

 大量のプラチナインゴット時価100㌘約500,000円総額5億円相当が警備員を皆殺しにして、裏側の霊柩車を強奪して逃走。強盗殺人犯たちは逃走用霊柩車を複数台用意して追跡を攪乱した。

 決死の追跡もむなしく、一所轄署である秋庭署だけでは太刀打ちできる相手ではなかった。事ここに至り県警は合同捜査本部を速やかに設置した。この事件現場を偶然にも訪れていたことを非番明けの翌日俺は報告することになる。(つづく)


鑑識の鋏塚君の事件ファイルNo.3&【スピンオフ】入交警部の捜査手帳Vol.2

『デカイ貴金属強盗殺人事件と破壊された霊柩車の処分費負担者失踪事件?』Page 2 Side 入交

 俺は【刑事課の入交 俊彦<イリマジリ トシヒコ>階級は警部だ】。事件の直近の概要は同僚からではなく鋏塚君から聞いた。彼は意外と知らない所で情報をキャッチすることがある。良くも悪くも事件体質なのだ。【年がら年中ではないが何故か事件に遭遇しやすい】それが事件体質だ。俺もそうだが。

 そうこうしている内に、強盗殺人グループの足取りが途絶えてしまった。奴らは逃走用霊柩車を全て、とある空き地で破壊したのだ。その処分費を負担した【堤ケ丘 良則】<ツツミガオカ ヨシノリ>が忽然と姿を消してしまった。完全に足取りが途絶えてしまったために我々はひとまず堤ケ丘 良則の件は失踪事件として扱い、状況によっては殺人事件に切り替える予定で捜査を開始した。破壊された霊柩車は鑑識の鋏塚君を呼んで分析してもらうことにした。彼は探偵ではない、鑑識だ。堤ケ丘が手配した処分業者は一般人の業者ではなかったようで、所謂暴力団が絡んでいる可能性が浮上してきた。それが国内の暴力団か、はたまた国外のグループかまでは解らないらしい。しかし、奴らは霊柩車を破壊したまではいいもののお掃除の方を忘れていたようだ。鋏塚君に回して調べてもらうとしよう。何か手掛かりになりそうなことが解れば良いが。 

「うす!入交さん。お疲れっす!」

「ああ、お疲れ。鋏塚君に調べてもらいたいんだが、このとある空き地で採取してもらうのは破壊された霊柩車に積まれていたものだ。」

「承知っす!早速取り掛かるっす1」

 鋏塚君は生き生きと採取作業に取り掛かった。あんなちまちました作業は俺には無理だ。鋏塚君、俺は君の仕事に対する姿勢を心から尊敬するよ。一通り作業が終了した所で我々も一旦引きあげることになった。勝負はこれからだ。(つづく)


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『デカイ貴金属強盗殺人事件と破壊された霊柩車の処分費負担者失踪事件?』Page 3 Side 鋏塚

 鑑識の腕の見せ所が来た。破壊された霊柩車の残骸から金属片とそれに付着したとみられる時間の経過した血液が発見された。金属片の材質は見た感じジュラルミンケースに使われるものだと思う。つまり、犯行グループは霊柩車の処分費を負担した堤ケ丘 良則を利用するだけ利用しておきながら買い取る為の現金を用意した堤ケ丘 良則をジュラルミンケースで殺害。その際に微量の金属片が血と共に飛散してしまったのだろう。相当の力をかけないと金属片が飛散することはまずない。それだけの力の持ち主でないとこの犯行は不可能だ。

 後日、堤ケ丘 良則の血液に間違いないと断定された金属片に付着した血痕は殺人事件と結びつけるのには説得力が強いものだった。これを踏まえて俺は刑事課の入交さんのもとに向かった。

「うす!鋏塚っす。入交さん。」

「おう、なにかわかったか?」

「破壊された霊柩車の処分費負担者の堤ケ丘 良則の血痕とみられる血液を飛散した金属片から見つけたんで、調べたっす。」

「おう。そしたら?」

「血痕の血が堤ケ丘のものとする結果が報告されたっす。」

「いよいよ、殺人容疑の事件に切り換えか?」

「そう遠くはないと思うっす。万が一の際は入交さんも気をつけてください。」

「鋏塚君、死亡フラグっぽいことは言わんでくれ。」

「失礼したっす。ではっ!」

 入交さんに知り得た情報を伝えた俺は、ここまでの事件を整理することにした。

 アキバ ブランニュー デパートにおいてプラチナ貴金属の大商談会があり、プラチナインゴット五億円相当も用意されていた。

 その裏側でメモリアルセレモニーホール向けの霊柩車展示即売会が開かれていた。

 そこへ、強盗団がデパートのプラチナ貴金属大商談会のインゴットを保管していた厳重な警備網に対して強盗殺人という手段で強奪。さらに裏側の霊柩車展示即売会の霊柩車も強奪し、複数台に分かれて逃走。一所轄署である秋庭署では対抗する術がなく取り逃がしてしまう。その結果合同捜査本部が設置された。

 その後に霊柩車は破壊された状態で発見されたが処分費を負担した堤ケ丘 良則が失踪者扱いとなっていたのだが、念入りに破壊された霊柩車の残骸を調べた結果、ジュラルミンケースから飛散したと思われる金属片を発見した。これに付着していた血痕が堤ケ丘のものとする結果が報告され、堤ケ丘 良則は殺害されていることが濃厚となり、殺人容疑に切り替えられて捜査することになった。 というのがここまでの経過だ。(つづく)


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『デカイ貴金属強盗殺人事件と破壊された霊柩車の処分費負担者失踪事件?』Page4 Side 入交

 鋏塚君の報告でジュラルミンケースの破片と判明した金属片に付着していた血痕は堤ケ丘のものであることがわかった。金属片が出るほどの怪力で堤ケ丘をジュラルミンケースで殺害したものと推定される。

 犯行グループはインゴットは大事に運び、札束は軽いが故に乱暴にスーツケースか何かに入れて運んでいるのだろう。堤ケ丘 良則は処分場施設に顔が利くようで霊柩車の破壊も違和感を抱くことなく依頼したようだ。処分場の霊柩車破壊の依頼人は堤ケ丘の名義だが、堤ケ丘の自宅事務所には堤ケ丘から『株式会社 山石カーリサイクル』という会社からの廃車処分依頼書が発見された。それに伴う堤ケ丘の霊柩車の車種なども記載された文書も発見された。処分場施設はただの空き地だった。

 山石カーリサイクルという会社はペーパーカンパニーであったことが捜査で判明したが、山石 団蔵<ヤマイシ ダンゾウ>は元暴力団員であり、現在も組と関わりがあるらしいことがわかった。ここに至り極道の香りがしてきた。マル暴は刑事課でも俺たちではなく、組対四課【刑事課】の暴力団相手専門の仕事人だ。中途半端なヤクザよりもよっぽど怖いと評判だ。

 その後、山石はあっさりと確保された。

「上に言われてやった。堤ケ丘は俺が殺した。」

「上ってのは何処のことだ?」

「どうせいつかは俺は殺されるから言ってやる。強盗も霊柩車も指示したのは弾砲会の組長だ!」

「そうか。よく言ってくれた。何か思い出したら伝えてくれ。先ずは「上石 団蔵。堤ケ丘 良則殺害容疑で〇〇30年4月8日17時48分逮捕する。」

 という流れで勾留中に山石は自供し、逮捕したそうだ。流石組対四課さんだ。この手の人たちへの対応が早くて正確だ。中でも特に組対四課の鬼瓦 権瓶<オニガワラ ゴンペイ>警部は俺と同期だ。気のいいやつだが見た目と名字の字面が一致していると誰もが言う事で有名だ。ちなみにアイツに一目おいて接している暴力団員はかなりいるらしい。

 日付が変わって、弾砲会へのガサ状が下りて組事務所へなだれ込んだ捜査員が組員を牽制しながら組長室に向かった。証拠品を押さえつつ、弾砲会組長『臼田 斎慧<ウスダ サイケイ>』に任意同行を願う構えだが、応じない場合逮捕令状を請求し逮捕して署まで連行する筋書きは描いてある。ガサの手伝いで鋏塚君が、鬼瓦の同期で組対四課の応援はお前しかできないと言う課長の推薦により俺と鬼瓦が組んで行動している次第だ。組長室の前に立った俺たちは一応扉をノックした。

「入り給え。ワシは逃げも隠れもせんよ。」

「臼田 斎慧さん、アキバ ブランニュー デパート強盗殺人計画並びに指示・逃走車両強奪指示及び処分・堤ケ丘 良則殺害指示に関して任意同行お願いできますか?」

「あなた方がその言葉を持ち出した時は勝算が確定した時だけだ。仕方ない私の負けだ。将棋で言えば投了だな。」

「アンタ潔いな。そんな感じの振る舞い方嫌いじゃないぜ。」

 俺と鬼瓦と主犯格の臼田がそんなやり取りをしてこの事件は幕を閉じた。

 後日、鑑識の鋏塚君の報告では事件にまつわる証拠品の数々が組事務所から押収されたという報告が入った。どれも今後の様々な物証となるものばかりである。

「大切にしまってくれ。」

 とだけ伝えた。今回の事件では死者が出ている。なんともやりきれない気持ちをこの手の事件に携わるたびに味あわされるのだ。しかし、そのたびに己を奮い立たせて少しでも多く治安を守ろうと努力することを誓うのであった。

 後日、鑑識の鋏塚君の報告では事件にまつわる証拠品の数々が組事務所から押収されたという報告が入った。どれも今後の様々な物証となるものばかりである。それから数日後に臼田は心筋梗塞によって死亡してしまった。これにより事件の最深部への捜索は困難になった。事実上の迷宮入りである。やりきれない思いでいっぱいだった。

 それでも警察官である以上犯罪のある限りこの仕事に終わりはないのだ。皆それを承知で働いているのだ。それが警察というところだ。(つづく)



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