鑑識の鋏塚君の事件ファイルNo.2
鑑識の鋏塚君の事件ファイルNo.2
『不正な手続きで火葬された科捜研の男?』Page1
それは、とある夏のことだった。秋庭署<アキバショ>の所轄する区域で不正な手続きである男が火葬されてしまうという事件が発生した。不正に関わった医師は速やかに逮捕されたが、取り調べに対して一貫して黙秘権を行使し続けているそうだ。そもそも火葬するには火葬の許可証がいるし、医師の死亡診断書が無ければその許可証が貰えないはずだ。「つまりこれは殺人事件ということで間ない。」と入交俊彦<イリマジリ トシヒコ>警部も言っていたことを思い出した。おっと自己紹介が遅れた、俺は【鑑識の鋏塚 新次郎<ハサミヅカ シンジロウ> 27歳 一応巡査長だ】。俺ら鑑識は証拠となりそうなものからこれもいるのか?というものまでいつもどおりの根こそぎ戦術で物証を得るのが仕事だ。事件の早期解決の為にも捜査を助力すべく仕事に励んだ。その結果捜査線上に浮かんできたとされる 当事者たる科捜研(科学捜査研究所)の所員は以下のとおりである。
【手場 沙希】<テバ サキ>《男》
年齢非公表 所長 (リーダーシップの強いおネエ)
【榎田 圭】<エノキダ ケイ>《女》
28歳 副所長(所長を支える良き補佐役?)
【土田 由梨音】<ツチダ ユリネ>《女》
年齢非公表 所員(名前の響きとは何かが違うらしい女性)
現在失踪中
【能有 孝子】<ノウアル タカコ>《女》
年齢非公表 所員(能力はあるが現状の扱いに不満があるとても出来る人)
現在失踪中
【平竹 七五三乃助】<ヒラタケ シメノスケ>《男》
25歳 所員(名前がコンプレックス・名前に起因する上司のパワハラに悩む)
現在失踪中
この五人は【仮装剣聖<カソウケンセイ>ゴカイジャー】という厨二病<チュウニビョウ>気味のありがたくない異名をつけられる程の個性的な誤解されやすい人物達であったようだ。今現在はそれぞれがそれぞれに不満などを抱えているようだ。所長の手場 沙希はリーダーシップの強さゆえについてこれない部下に不満がある。副所長の榎田 圭はなかなか、まわって来ない所長の椅子が欲しくてたまらないのを必死でこらえている。土田 由梨音は気性が激しくしばしば周囲の人間と口論になることも多々あるそうだ。能有 孝子は自分の能力の高さを評価しない所長を半ば逆恨みしておりこの中では一番所長を貶めたい動機がありそうだが、能力を認めないという理由だけで犯行に及べるものだろうか?最後の1人が平竹 七五三乃助だが、彼の一風変わった名前は幼少期からいじめの格好の餌食となり、今でも命名した親を恨んでいるという。コンプレックスの塊の名前だが、自分の名前である以上仕方がないと諦めていたところもあったそうだが、所長と副所長にはこれまでどれだけなんだと思うほど逃げ場のないそれこそえげつないパワハラを受けさせられてきたと本人は思っている。と科捜研内でも噂になっていたらしい。つまり周囲からもパワハラであることは公然とした事実として認識されていたことになる。そして現在彼等は消息不明で失踪中である。果たして彼等は本当に失踪したのであろうか?(つづく)
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『不正な手続きで火葬された科捜研の男?』Page2
火葬された遺骨とサンプルとして保存されていた平竹 七五三乃助<ヒラタケ シメノスケ>の皮膚のDNA鑑定を第三者機関に依頼した結果、遺骨は平竹 七五三乃助のものであることが科学的に証明された。これを受けて秋庭署は当該案件を殺人事件に切り替え、本格的に捜査することにした。本来は鑑識である俺がしゃしゃり出ていくことは越権行為(意味があっているかは知らない)じゃないかとも思ったが話の続きはやはり気になるものだ。俺は万が一の時の証拠品採取の要員として随伴させてもらえるように上に申請してみたところ無事承認された。直属の上司からは「屁理屈で捜査に随伴か...お前は鑑識よりも刑事向きなんじゃないか?」と弄られたが自分はあくまでも鑑識と言う立場から事件を見ていくことを望んでいる。自分に鑑識としての適性があるかどうかは別として。
話を戻そう。不正な手続きで火葬されたのは誰であると断定出来なかった。死因は火葬にされてしまい遺骨が残るのみなので、死因は焼死と推定されるにとどまり断定出来なかった。
平竹は生前常々「副所長が一番要らね~!器が小さいから所長になれねえんだよ!」と酒の席でも周りが引くくらい暴言を吐いていたという。当然、榎田副所長の耳にも入り、彼女の自尊心を著しく傷つけた。この時点で動機はこの方向でよさそうだが物証がないそれらを突き詰めようとした矢先に榎田副所長まで殺害されてしまった!この事態は平竹と榎田副所長が同時に亡くなった方が一番都合の良い人物ということに当然ながらなってくる。ここで俺は一度冷静になろうと思い、近くにいた入交警部と合流して話した。
「おう!鋏塚君。なにかわかったか?」
「うす!入交さん。さっき火葬された遺骨のデータを見て気付いたんですが、もしかして若作りの榎田副所長が平竹に扮して殺害し、殺されることを回避したんですか?」
「ああ、その線だろうよ。」
「それでも尚榎田副所長が邪魔な人物がいた。そういうことですね!」
「ああ、そういうことだ。しかし、これはどこまでいってもこのままでは推論の域を出ない。物証がいる。それも決定的なモノをな!」
興奮冷めやらぬままに果たして決定的な物証を見つけられるかわからないが入交警部に随伴して捜査を開始した。(つづく)
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『不正な手続きで火葬された科捜研の男?』Page3
榎田副所長は真犯人に殺害された!その可能性があることに俺も入交警部もテンションが急上昇していたのだが、依然として平竹 七五三乃助<ヒラタケ シメノスケ>の行方は知れず。手詰まり気味となりせっかく上がったテンションは急降下してしまった。
その最中にまたもや事件が起きてしまった。手場 沙希<テバ サキ>所長が殺害されたのである。俺は心拍数があがっているのを自覚しながら入交警部と共に現場に駆けつけることになった。
殺害現場である手場 沙希<テバ サキ>の自宅に駆けつけた俺と入交警部はお互いの仕事へと向かった。
「鋏塚!鑑識の仕事しろよ!さもないと刑事課に異動の要請するぞ!」と豪快に言い放って入交警部は事件の捜査の本職の職務に入った。それだけに今は話しかけられる空気ではない。俺は鑑識として塵一つとして残さぬ事件に僅かでも関わりがありそうなものは根こそぎ採取した。それにしても手場所長の遺体は目も当てられない様相を呈していた。具体的な表現は避けるが例えるなら(鶏の手羽先が手元にあります下処理が終わりました♪)と言う感じだ。どうしてこんなにも困難な状況で凄惨な殺害方法を選んだのだろうか?それ以前に誰が手場所長を狙ったのか?平竹七五三乃助、榎田副所長殺害犯との関連など幾つか重なり合って来たような気がする。今現在で死亡してしまった人は、
【手場所長・榎田副所長・平竹七五三乃助】の3人である。入交警部から聞いたところによると手場所長は榎田副所長を補佐役どころか無能者扱いをしていたらしく、
「今度の粗大ゴミで棄てたいわぁ~」
とオネエな口調で殊更に周囲に漏らしていたらしい。
ここにきて捜査が振り出しに戻ったような気がした。榎田副所長・平竹七五三乃助の2人が死亡したことで都合が良くなる人物が殺害されてしまったからである。だが、殺害の容疑が疑われる仮装剣聖ゴカイジャー(痛々しいネーミング)の皆さんも残るは2人である。事件解決まで目前ということは決定的となった。ここまでの捜査で外部の犯行は100㌫ないと太鼓判を押せるとのことであった。(つづく)
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『不正な手続きで火葬された科捜研の男?』 Page4
犯人は【土田 由梨音<ツチダ ユリネ>】と【能有 孝子<ノウアル タカコ>】に絞られた。まずは基本にさかのぼって2人のそれぞれの動機を分析しよう。死んだ榎田は副所長という要職に在りながら満足はしておらず常に所長の椅子を狙い続けた。手場所長から無能者扱いされた挙げ句『粗大ゴミ』とまで言われていたとなると相当な殺意を手場所長に持っていたに違いない。その榎田は平竹をパワハラ行為を行い心理的に追い詰めていた。榎田は平竹に殺意を持たれても仕方がない。そう思っていたが、もしも土田由梨音か能有孝子のどちらかと榎田圭が入れ替わっていたら?不正な手続きの手引きをした人間が榎田副所長だったとしたら?
俺は入交さんを呼び出した。
「おう、鋏塚なにかわかったか?」
「うす、入交さん不審な点があったんで直に話そうかと思ったっす。」
俺は要点をかいつまんで榎田副所長の生存説と土田由梨音・能有孝子のいずれかは
不正な手続きで火葬された科捜研の女である可能性を示した。
「つまり、お前さんは火葬されたのは榎田じゃないということだな?」
「はい。そのとおりです。」
「で、お前さんは協力者は誰だと思ってるんだ?ここまできたら共犯者として逮捕せにゃならん。」
「おそらく能有孝子でしょう。彼女は無能者呼ばわりされる榎田を見るに見かねていた節もあったらしく自身も自分自身が高い評価をしているにもかかわらず重用しない手場所長を憎んでいたようです。ここまでで殺害の動機としては充分だと思います。殺人事件は元々理不尽で身勝手な行為ですから。」
「ああ、そうだな。よし能有孝子を捜し出せ!土田由梨音と思しき遺骨をDNA鑑定しろ!」
それからしばらくして、共に逃亡生活を続けていた榎田圭と能有孝子が関東国際空港で出国手続き中に取り押さえられて緊急逮捕された。両者は速やかに別行動で取り調べの為に秋庭署へと連行された。動機に関しては俺が入交警部に説明したとおりだった。能有孝子は副所長の椅子も餌にされていたらしい。
そして、その翌日のタイミングで不正な手続きをした医師が黙秘を止めた。
「私は土田弓近<ツチダ キュウコン>土田由梨音の兄だ。」
そう語りだした土田弓近の犯行の動機は、妹が邪魔だったというこれもまた理不尽で身勝手な犯行だった。そして被疑者3人は結果として共犯者であったものの犯行は榎田圭と能有孝子であり綿密に打ち合わせをしていたなかで、土田由梨音が兄と恐ろしいほどの喧嘩をしていることを知るとすぐに兄・土田弓近<ツチダ キュウコン>と接触した。彼は紛れもない医師だからである。この誘いに土田弓近はのってしまった。そして、死亡診断書を捻じ曲げ直葬扱いで平竹七五三乃助を火葬したのだ。妹の死亡診断書には平竹七五三乃助の死亡診断書を捻じ曲げた。この際には取り締まる側の人間を買収する必要があったがこの男は平然と妹の遺体の処分に奔走し、火葬にこぎつけたが買収先から情報が洩れて逮捕されてしまい今回の事件が発覚したのだ。やりきれない。ああやりきれない事件だ。
結局、彼等から事件に対する被害者への謝罪は一切なかった。自己弁護に追われる彼等を見ていると弁護士にはなりたくないとつくづく思った。
「おう!鋏塚。今回の事件お手柄だったな。」
「うす!自分は入交さんに素人の思いつきを言っただけっす。聞き入れてくれた入交さんの器が大きいだけっす。」
「お世辞を言っても何も出んぞ?」
「後味が悪すぎる事件だったっすねえ。」
「後味の良い事件なんてねえぞ?」
「そりゃそうだ。」
犯してはならない罪を犯す。だから、犯罪と言う。わかってはいてもいざ当事者になった時に冷静になって自制を保てるか?罪を犯すことなくその場を切り抜けることができるか?今回の事件で俺はつくづくそう思った。(了)
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