第5話 変化



 洸希と恵が離れていって、俺と藍は二人になった。普段どおり大学に通っているのに、何かが違う。講義の取り方も変えたのか、二人とは顔を合わすこともない。俺の隣には、藍だけがいる。

 藍のことだけは順調だったはずなのに、彼女はなぜか口うるさく俺の交友関係を気にするようになっていった。

 ひどい時は、泣きわめき、叫び声を上げる。

 見た目も変わった。きれい好きだった彼女が、髪は伸ばしっぱなし、お風呂にも入らない。部屋着みたいな格好で大学に来ることも増えた。

 だが、その時はまだよかったのかもしれない。藍は、そのうち大学に来なくなってしまった。

 俺は毎日、彼女が一人暮らしをしている部屋を訪ねた。

 今の状態の彼女とは、話すことも特にない。俺が黙っていると、何も喋らないなら帰って、と追い出されてしまう。

 藍に何があったのかは、分からない。でも、仲間と離れたことがきっかけのような気がしてならなかった。

 寂しいなら、みんなのところへ戻ろうと声をかけたこともある。けれど、藍は激しく拒絶した。


「それだけはだめなの! お願い、京介くん、いかないで」


 藍が泣く。その理由が俺にあるような、そんな気がする。

 藍が大学に来なくなって数週間が過ぎた頃、俺は偶然、洸希と会った。学食で昼ごはんを食べようとしたが、あいにく満席だったため、うろうろとどうしようか迷っていた時に、彼のほうから声をかけてくれたのだ。


「よう」


 洸希、と名を呼んでから、ひどく懐かしい気持ちになる。


「ここ、座れば」


 俺は彼の顔をぼーっと見てから、洸希が取っていたテーブルについた。

 久しぶりすぎて、調子がつかめない。


「藍とは、上手くやってんの」


 そう聞かれて、俺は少し黙ってしまった。

 離れてからも、心配してくれていたんだ。と、嬉しくなるのと同時に、今の事情をどう話すか、という不安にかられる。

 でも、やっぱり洸希だから。彼には正直に話そうと決めた。


「最近、藍の様子がおかしくて。大学に来てないんだ」


「え? どういうこと」


 事情を全て話すと、洸希はうーんと考え込み、


「それ、なんか病気っぽいなあ」


 認めたくはなかったけど、そう思うしかないようだ。


「精神的に落ち込んでるのかもな。恵にも伝えておく」


 昼ごはんを終えて立ち上がった洸希に、俺も何か言わなくては、と焦ってしまう。

 

「洸希、ありがとう」


 心配してくれて。と続ける。

 彼は、以前のように笑って、


「仕方ねえなあ、京介は」


 そう言って、去って行った。

 なんとかしなければ。そういう思いが、俺の中で大きくなっていた。

 


 

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