第18話 母
母もまた強い人でした。
母という人は、一度目の結婚で子を授からず、その相手とは離婚し。
出戻りで、父とは再婚でした。
しかし、その後、5人子供を産んで、孫が15人になったのですから、一度目の結婚は、母が追い出されたのではなく、母が見切りをつけたのかもしれないと、自分が子供を産んでから思うようになりました。
母は、兄妹、孫、家に出入りしているお手伝いさん、分け隔てなく誰にでも平等に接する人でした。
同居する長男の嫁には少しひいき目にしていたかもしれません。おとなしく働き者の嫁さんは、母に良くしてくれていました。兄は頭は良いが、あまり体が丈夫ではなく稼ぎも少ない人でした。それでも、文句も言わずにあの家に尽くしていたのは、母が嫁さんを、褒めて頼りにしていたからでしょう。
母は、私が32の時に胸の癌になり、手術をして胸を取りましたが、予後が悪く回復せずに亡くなりました。
実家の広間の襖を外して広くなった畳の部屋に、白と黒の幕を張って、大きな花輪がたくさん並べられ、立派な祭壇を作り、通夜ではお線香の煙を絶やさぬように、その前に布団を敷いて、兄妹でかわりばんこに寝ずの番をしました。
お葬式にはたくさんの弔問があり、町内のご婦人達が手伝いに来て、台所やお茶出しを手伝いました。
そうやって助け合う時代でした。
お葬式や新盆は、どこか、お祭りや結婚式に似ていて、母が無くなった悲しみの中に、なぜだか笑い声がわいたりする事が不思議で、元気が余った子供達が、走り回るのをうざったらしく思い、私はあなたを叱りました。
皆の見ている前で、火がついたように叱りつけました。
覚えているでしょうか。
あなたは「なんで私だけ怒られるの? いつも私だけ!!」と私に歯向かってきました。
他の子供達が、静まり返るなかで、あなたはいっそう大きな声で私に盾突き、何も言わずに堂々と睨む私に「鬼! 鬼だ!!」と言って。
泣きました。
「うるさい! 泣くな!!!」と言うと、あなたは走って、母の亡骸の横に行き、「私も死ぬ! ばあちゃん、私も連れてって」と泣いていましたね。
とんでもない事をする子供です。
どんな育てた方をしたら、こんなに激しい気性の子供になるのでしょうか。
誰に似たのか。
誰にも似てないのか。
育て方を間違えたのでしょうか。
私の手には負えない娘でした。
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