第17話 距離
嫁いだ娘が実家に顔を出す。
親にとっては嬉しいものなのかと思っていました。
しかし父は違いました。
私が実家に帰り、ねぇさんが出してくれたお菓子やお昼を食べていると、「なんだ。そんなに食って、、卑しい」と吐き捨てるように言って、同じ席に座ろうとはしませんでした。
卑しいなどと言われても、私も正直、嫁いだ先でひもじい思いをしていたのです。食べ物を目の前にして「いらない」とは言えませんでした。残ったお菓子や果物。持って行きなさいと出されるものはなんでももらいました。
父の嫌味や、蔑んだ目は無視していました。
父は背が高く、昔の人にしてはハイカラな目立つ人でした。おしゃべりではありませんが、何に対してもはっきりと意見を言うようなところがあり、父に対して「怖い」という印象を持っている人が多かったのです。
娘の私でさえ、父に対して緊張感がありました。
ところが、そんな父が、私の娘にはとても優しかったのです。
父は時々、孫達に服や文房具、おもちゃを買ってくれる事がありました。
ひとりひとりに与えるのではなく、いろいろな物をまとめて買っておいて、その中から「選びなさい」と、孫に選ばせるのです。
私の娘は、何故か遠慮をするほうで、その中でも自分のお小遣いでも買えるような物を選びました。
すると父は、「それでいのか? こっちの方が良いんじゃないか」と良いものを持たせてくれるのです。それを素直に受け取る孫も可愛かったのでしょう。
娘は「じいちゃん怖いけど好き」と言っていました。
私だって同じです。ただ素直にそんなふうに言葉にできなかっただけです。
父に頭をなでてもらう娘を、私は離れたところで見ていました。じっと、微笑みもせずに。
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