第15話 独り

やがて下のあの子も進学し、家を出ていきました。

なぜ我が子は生まれ育った土地を離れて行くのでしょう。何故わたしの側から離れて行くのでしょう。


夫との2人暮らしが始まりました。

相変わらず、酒を飲んでは人が変わり荒れ狂う酒乱のあの人との暮らしです。

私の気持ちはどんどん家から離れながら、子供達の仕送りのためにパート勤めに時間を費やしました。

働く事は楽しかったのです。

職場で出会う気の合う仲間や、新しい付き合い。パートの仲間と飲みに行くようにもなりました。

仕事の愚痴は家庭の愚痴を言い合うよりも人間関係を深め、社会の中で生きている気がしました。

久しぶりに、どこどこの奥さん や だれだれのお母さん ではなくて、名前で呼ばれ、簡単な仕事だとしても責任を持たせられ、頑張って働き達成感を感じていました。

家ではぐうたらな私でも、外では働き者でした。

そんな私のことをあなたは知らないでしょう。

あの人と二人で暮らしていても、私はいつも孤独でした。

あれほど夢だった我が家を建てても、そこに私の幸福はなかったのです。

いっそ、一人でいる方がましなぐらいでした。

あの人が酒を飲み荒れれば、口もききたくなくなるし、それをあの人が忘れて笑っていれば、顔も見たくなくなるし、あの人の足音さえも憎らしく、全てが煩わしい。

そう思っていました。


嫌いな人と、ひとつ屋根の下に暮らす息苦しさを私は何年耐えたでしょう。


あなたは言いましたね、どうして離婚しないのかと。それは、お金のためです。

あの人のお給料が私には必要だったのです。

あなたと、あの子に仕送りや食べ物を送って生活していくためには、収入の安定が必要だったのです。

そしてやはり、意地もありました。

親の反対を押し切って勝手に結婚したのです。

やはりあれからなのだと思います。

私が変わっていったのは…。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る