第13話 恋
秘密にしていたことがあります。
実は、私は結婚してから…というか
母親になってから、幾度か恋をしました。
私にとって、素晴らしい出会いであり、懐かしい時間であり、大切な思い出であり、せつない別れでした。
それが不倫かどうかはさておき。
…というのは都合のいい逃げでしょうか。
でも、娘のあなたには分かっていたはずです。
あなたがその当時にそう思ったとおりです。
あなたはそういう事を見透かすような子供でしたから。
母親のくせに、恋に夢中になり、あなた達まで巻き込んで、恋人と一緒に海や山に出かけ、家族ごっこを楽しみましたね。
あなた達の本当の父親は、家族と一緒に出かける事を面倒がる人でした。
あなたにも覚えがあるでしょう。
あの人は、お酒が出ないような集まりには行かない人でしたし、そもそもあまり家にいませんでした。
たまの休みには朝から酒を飲み、ほぼ毎回酔っては暴れ…ぁぁ、嫌な思い出です。
だからといって、他に好きな人ができて、楽しく過ごしていたなんて許されないことでしょうけれど…。覚えてるでしょうあなたも、あの人達のことを。あなたにもたくさんの物を与えてくれた人達でした。
あなたもきっと大人になればわかると思うのです。
大人になったとしても、人は未熟なのです。
いくつになっても愛に飢えてしまうのです。
優しさに流されやすく、温かさを求めてしまうのです。
写真や手紙、すべて捨ててしまいましたが、目を閉じればあの頃の私が、誰かに恋していた眩しさがよみがえります。
あなたにとって私は、ずるくて自己愛の強い最悪な母親だったのでしょうね。
でも私は後悔はしていません。
人は正しいことだけで美しく生きてはいけないのです。
あなたも、たくさん傷つき汚れながら、大人になるでしょう。
そしてわかる日がくるのです。
あなたの最悪な母親も、ただ一人の女だったということが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます