第10話 思い出
アルバムをめくると
幼き日のあなたやあの子との日々が
ついこの間の出来事のように思い出されます。
桜の下で、海の砂浜で、運動会で、遠足で、真っ白な雪のスキー場で、、、
懐かしいあの狹い団地の部屋でパジャマ姿で並ぶ姉弟。
そのパジャマは私が縫ったものでした。
あなたはそのパジャマをとても気入っていましたね。ピンクとグレーのストライプの生地であなたに手提げ袋を作ったり、人形のスカートを作ったり、
ミシンを動かし、私はあなたのために、いろいろな物を縫って与えました。
あなたは信じないでしょうが、
私は母親として、あなたを愛していたんですよ。
不思議ですね。
こうやってアルバムをめくると、
今はもう、幸せな時の顔しか思い出せないのです。
あの、苦しいようなお互いを解りあえない、毎日のようにぶつかった日々。
出て行けと私が言えば、あなたはぷいとすぐに家から出て行きましたね。
何度繰り返されたでしょう。
あなたは子供でしたから、行くあてもなく、結局家に帰ってきて、あの机の下に座っていました。
あなたの長く激しい反抗期は、私にとってもとても苦しいものだったのです。
私を睨むあなたの目は、私を拒絶し、憎しみに満ちていました。私はその目を見ると、あなたを産んだことや、あの人と結婚した事さえ私の失敗だったように感じて、あの時、親の反対を押し切って勝手に結婚した自分の愚かさを後悔するのです。
でも、不思議です。
今はあなたの可愛い明るい笑顔しか思い出せません。
私の父や母ももうずいぶん前に死んでしまいました。
父や母の顔も、優しかった笑顔しか思い出せません。
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