第6話 独立
あの人をあの家から連れ出して、あの村から離れれば、私の思うような4人家族になれると思っていました。
私の友人を頼り、市営の団地に私達は引っ越したのです。長屋の団地の間取りは
小さい台所に2部屋。コンクリートの床にすのこを敷いた風呂場には二槽式の洗濯機。くみ取り式の狭い便所。
庭があり、庭には物置き小屋を立てました。
4人が住むにはだいぶ手狭でしたが、隣り近所も皆、同じようなものでした。
あの人は農家をやめて、市場へ勤めるようになりました。朝早く仕事に行き、夜も夜勤があり、あまり家にいる時間がなくなりました。会社員となったあの人は会社の仲間というものができ、仕事終わりに飲みに行き、そのまま翌日の仕事に行く事や、野球、山登りと、趣味を楽しむ事を覚え、家にいる時間がどんどん少なくなっていきました。
しかし私はそれについてはなんの不満もありませんでした。
景気が良い時代でした、あの人の稼ぎはとても良かったのです。
給料日に給料袋を持って帰ってきてくれれば、それ以上の何も望まなかったし、正直に言えば、それぐらいがちょうど良かったのです。
もちろん、その間にも、あの人の酒乱は続いていました。
団地は長屋でしたから、あの人が酔っ払って騒いだ翌日には近所に頭を下げて回るような、、そして慰めの言葉をもらうような、恥ずかしさもありました。
ですが、どう思われようが、ここには安心がありました。
ご近所の奥さん達とはすぐに友達になり、子育てをしながら助けあったり、お茶を飲んだり、皆で集まり内職を始めた事もありました。
経済的にも親から独立し、貯金もたまっていきました。慎ましい暮らしをしながら将来は家を建てようという夢もできました。
とてもいい時代でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます