第7話

 店内は肉の焼ける匂いと煙草の匂い、中年の体臭が充満していた。いかにも、体に悪そうな環境の中で、全ての客が騒がしく楽しそうだった。店員さえも軽い足取りで大きなビールジョッキを運んでいた。


「待った?」

 私は、いつもの席に座る安本と林を見つけ声を掛けた。

「ついさっき来たところだよ」

 林はそう言った。テーブルには生ビール二つだけが置かれ、まだ他の注文はしていない様子だった。

「用事済んだ?」

「ああ、無事に」

 安本の乱暴な問いに真面目に答え、私は自分の生ビールを頼み、さらにつまみも数点注文した。

「どこ行ってたの?」

 林は、訳の分からない子供のような顔をして質問をした。

「招待状をね、注文しに行ったんだ。Mデパートまで」

「そういうのって、式場で全部やってくれるんじゃないの?」

 私と林の会話を聞いているのかいないのか、安本は、通り過ぎる店員に二つ目の生ビールを注文した。

「こだわりがあるみたいでさ、紙専門店で」

「紙専門?」

「ああ」

「へえ、そんな店あるの?」

 林は驚いた様子で、運ばれてきた串焼きを一本手に取った。

「大変そうだな」

 安本は、冷たそうな二杯目のジョッキを持ち、ニヤリと笑いながらゴクゴクと中身を半分以上飲んだ。

「言われた事やってるだけ」

「ふうん」

 安本は興味なさそうだった。

「結婚するって、大変なんだな」

 林が頷きながら言うと、

「そりゃそうだろ」

 安本は、少し林を睨むような顔をして、私が注文した刺身に箸をつけた。

「お、美味いこれ。この店で、初めて食ったんじゃないか? 刺身なんて」

 細い目を見開いて、安本は喜んだ。

「あ、そうだな。生もの、初めてかも」

 林が言った。

「頼んだのお前?」

 安本の問いかけに、私が頷くと、

「あれ、お前、生もの好きだった?」

 と、尋問のような質問投げかけた。

「嫌いじゃないよ」

「嫌いじゃない、ってなんだよ。好きなの? 嫌いなの?」

「食べれる、ってこと」

「何それ。お前さ、何でいつも、そんな中間彷徨ってんの?」

 安本の言葉は、ストレートな正解だ。私は、いつも中間で、どっちにも振れない。馬鹿みたいな顔をして、真ん中で立っている。


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