第296話 ローマは一日にして成らず
「まぁ、いくらウチで雇用に貢献できる技術を持っていると言っても、この問題を解決しないかぎりはそれも難しくなってしまうだろうがな」
デュランはせっかくの雇用問題解決に期待するアルフの気持ちに水を差すことになると理解しつつも、再度現実に立ちはだかっている問題を口にした。
そうでなければ過度に期待を持たれてしまい、駄目だったときに立ち直れないほど彼がショックを受けてしまうことを懸念しての彼なりの思いやりの方法だった。
「わーかってるってんだデュラン! 利益を得られなければ、会社は成り立たない。延いてはそこで働く労働者達も仕事が貰えないってんだろ? よーし、これまで以上に気合い入れて頑張ろうぜ!!」
「アルフは相変わらずだな。けれども、そうでなくてはアルフじゃない……か」
「はははっ。ちげーねー。能天気な兄ちゃんだからこそ、こっちも変な肩肘張らずに色んなもん試せるってもんだ。俺達も負けずに頑張ろうぜ!」
「ふふっ。そうだな、俺達もアルフを見習って頑張るとするか」
デュランとゼフは明るい表情になり頑張って問題解決に取り組もうとするアルフのことを、心地良いと思っていた。
そうして気持ちを入れ替えた三人は、さっそく連続鋳造機の前に集まる。
そして取り出し口に設置してあるロール……通称ツメの取り付け角度を変えてみたり、出てくる鋼片とツメとの間に板を挟み込んでみたりと、ありとあらゆる方法を思いついてはすぐさま試してみることにした。
けれどもどれ一つとも問題解決には結びつかず、むしろ取り出し口の内部を鋼片で詰まらせてしまったりと逆に問題を増やしてしまう。
結局のところ、効率化と出てくる鋼片のスムーズさを鑑みれば、今の形・製法こそがベストであると結論付けられたのである。
しかし、それは何の進展もないことを指し示しており、振り出しに戻ってしまったに過ぎなかった。
何度試してみても、また良いアイディアが浮かぶどころか、失敗を重ね落ち込む二人を前にゼフはこんな言葉を口にする。
「たった一日やそこらでこんな問題が解決できりゃ~、誰も苦労なんてしねぇよ。それにな、アイディアを一つ一つ試してみるだけでも価値があるってもんだ。たとえそれが失敗だったとしても、失敗という結果を得られたんだ。問題はそれを次にどう生かすことができるのか。それだけのことだ」
それは年の功とも言うべき、彼なりの言葉だったのかもしれない。
デュランとアルフの二人とは違い、彼には長年の経験というものがあった。
それは技術的また知識的経験はもちろんのこと、これまでにおける『人生』という名の彼の苦労こそが二人には決して勝ることの出来ないものだった。
『ローマは一日にして成らず』
ゼフの説明を聞いたデュランは、その言葉を思い出してしまった。
今日が駄目なら、明日も試せばいい。
明日も駄目なら、明後日も試せばいい。
そうして何事も諦めずに続けていく限りは、いつの日か問題を解決する日がやって来る。
そのようにデュランはゼフから教えられたような気がした。
彼の言葉には重みがあり、それと同時に確かな信頼性も感じ取ることができた。
だからこそ失敗したと落ち込んでいたデュランとアルフの二人は彼の言葉を信じ、明日も頑張ることを胸内に刻み込むのだった。
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