第292話 熱伝導性
「それで次はこのタンディッシュの真下にある鋳型へと流し込むんだ。この鋳型は銅製で、その周りを水で冷却してある」
「銅を使っているのか? でも銅は鋼鉄なんかよりも……」
「おっ。そのことに自分で気づいたか? そうだよ、銅は鋼鉄よりも融点が低いんだ。通常ならば、鋼鉄の熱を受けて銅製の鋳型も溶けちまう。だからこそ、その周りを水で冷却してるんじゃねぇか。それにな、銅は鉄や鋼鉄なんかよりも熱伝導性に優れているんだ。つまり同じ循環するにしても、銅の方がよく冷えるって寸法なんだよ」
「あーっ。なるほどなるほど、冷やせばいいのか。だからドロドロに溶けた鋼鉄じゃなくて、板みたいな形状にだって出てきやがるのか」
ゼフは次なる鋳型の説明をアルフにしてくれている。
実際その機械類を目の当たりにしながら説明してくれているため、アルフでさえも仕組みを良く理解できている。
またこれまで経験してきた知識から、銅と鋼鉄の融点の違いや何故高熱に熱せられ溶けた鋼鉄……これはいわゆる
銅は熱伝導性に優れているため、ああして銅製鋳型の周りを囲うように水で冷却してやれば全体へと広がり、冷やすことが出来る。
これが溶鋼をある程度まで成型しつつも、割れが生じない程度まで冷却してくれる。
だからこうして半製品として鋼片が出てくる仕組みとなっているわけである。
「そして取り出すのが、このまぁ……両端に付けられたロールとも呼ばれる
ゼフは問題であるツメの説明にくると、途端にその声量を落としてしまう。
尤も、デュランもその気持ちは理解できなくはなかった。
「で、後はこのローラー状のレーンの上を移動させ、
「まぁそうだな。要するに溶かした鋼鉄の材料を冷やした型を通して取り出す……そんな感じだ。どうだ、アルフもこれなら理解できただろ?」
「デュランの説明で大体はな。にしても、周りを冷やした銅の型の中を溶けた鋼鉄が通るってのもなんだか不思議ものだよなぁ~」
「長々と喋っていた俺の説明を無下にする言葉をありがとよ、雇い主さん!」
大方の説明を終えたゼフはデュランとアルフに改めて向き合い、感想を聞いてくる。
デュランが再度簡単に要点だけをまとめた説明をしてみせると、ゼフは「俺の苦労はなんだったのか」と言いたげにデュランへ感謝の言葉を述べる。それはちょっとした嫌味の意味も含まれていたことだろう。
「なぁ、このタンディルシュ(?)だかって装置が垂直に備え付けられているのにも意味あるのか? 普通ってか、前に見たのはこう平行で真っ平らな機械だったんだよな?」
「タンディルシュじゃなくて、タンディッシュな。アルフが一体何と間違えたのか、逆に興味を惹いてしまうな」
「あっ、そっかそっか。タンディッシュな。ややこしいんだよな、ほんと……」
「ま、聞きなれない言葉だから無理もないさ」
アルフは以前ここの精錬所にあった精錬工程の機械類のことを思い出し、それと比較して新たな技術である連続鋳造機との違いについて聞いてくる。
デュランは言葉を間違えた彼を馬鹿にすることなく、訂正するだけに留まった。
尤もデュランでさえも専門的知識は皆無であり、辛うじて聞き
それにまたややこしいとのアルフの言葉どおりデュランも同じ思いを抱いていたのであったが、自らが事業主である手前、アルフやゼフの目の前で弱音を吐くわけにはいかなかった。
「アルフ、金属っていうのは重いだろ? こうした垂直に流れるように機械というか、受け皿や鋳型を設置することで自然落下するようにしているのだ。確かに以前ここの精錬所にあった装置は水平に備え付けられていたが、あれでは人か蒸気機関の力を借りなければ取り出すことすら困難だったんだ。だが、この垂直型ならば……」
「あんまり人の手がかからないってことか。なるほどなぁ~」
デュランが連続鋳造機がどうして垂直に備え付けられているのかしっかりと説明してみせると、アルフは納得したように頷いている。
人は言葉や字面だけでは未知なる知識や情報を想い描くことが困難ではあるが、こうして実際間近で機械類を見ながら説明を受けることでその原理や仕組み、また道理などを良く理解できるようになる。
それこそが昔から言われている机上の空論という言葉であり、経験に勝るものはないという謂れでもある。
いくら頭の中で想い描けていたとしても、実際の物事とは少なからず誤差が出てきてしまう。
それが自分の知らぬ知識や新しい技術、またそれに付属する形の問題点ならば、なおのことそうなってしまうことだろう。
「またそれだけじゃない。この連続鋳造機って新たな技術はな、俺達労働者の雇用を促進させる意味合いもあるんだぜ!」
横からゼフが透かさず、そんな言葉を口にする。
どうやらデュランの説明だけでは不足だと考え、横から口を出してきたのだろう。
またそれだけ自分とデュランが確立した新技術製法に自信を持っている裏返しの意味も含まれたのかもしれない。
「「そうなのかっ!?」」
「(ニヤリ)まぁ……な」
デュランとアルフは互いに示し合わせたわけでもないのに、声を重ね合わせ驚いている。
ゼフは
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます