第289話 好奇心
そうしてアルフの何気ない一言によって、難なく製造レーンから鋼鉄板を取り出すことに成功した。
そしてある程度まで熱が冷めるの待ってから、木で作られた板状へと乗せて床置きする。
でなければ、鋼鉄の帯びた熱のせいで木自体が燃えてしまったり、床に地下置きしてしまえば床が溶ける危険性もあったからである。
「よし。表面は赤くないな。もうそろそろ温度も下がってきたのかもしれないぞ。さっそくアルフが見つけた縞模様とやらを調べてみるとするか」
それから数十分ほどの間を置いてから、デュラン達は鋼鉄板を調べてみることにした。
アルフの指摘したとおり、確かに鋼鉄板その表面に並々の段差付きの縞模様が刻み込まれている。
デュランが金属板表面をなぞるよう、そっと手で触れてみる。
「熱っ! ま、まだ完全には冷めていないようだな。だが、それでも……」
触れてみると鋼鉄はまだ熱を帯びている。
けれどもデュランは完全に冷め切るまで待てないと、手で触りその模様を調べ始めた。
「おいおい、デュラ~ン。火傷なんかしねぇでくれよ~。もしもお前が怪我なんかしちまったら、俺のほうがリサにドヤされちまうんだぞ」
「ははっ。さすがに火傷をするほど、馬鹿じゃないぞ。ただずっとは触っていられない熱さなのは確かだな」
アルフはデュランが火傷してしまえば、彼の妻であるリサに自分が叱られてしまうと口にして気をつけるように言ってくれた。
妻であるリサをダシにして使えば、デュランも無茶はできないだろうという彼なりの心配りなのかもしれない。
デュランはやや大げさに驚きすぎたと反省すると、完全に冷め切るまではあまり手で触れないよう気をつけることにした。
「にしても、アルフの言うとおり本当に縞模様のようなものが表面に出来ているな。こうして触れてみると、金属板表面が波打っているのがより理解できる」
鋼鉄板の表面には、綺麗な一定の間隔で
山状に盛り上がってる部分は光を反射して明るく照らされ、へこんで谷となっている部分は山のせいで影が出来ることで逆に暗くなっている。これが遠目からみれば縞模様と見えるカラクリの秘密だった。
ただ直接手で触ってみて初めて分かることなのだが、見た目ほど段落差は大きくはなかった。
段と段の間が広いため、緩やかにも鋼鉄板表面上に凹凸が出来ているようである。
「プレス機にかける前に、このような模様が出来ているってことだろうな。それがプレスされることで表面が
「だろうな。出なければ、圧延工程後にも模様が残っていねぇとおかしいはずだしな」
デュランとゼフは食い入るようにその縞模様が出来ている金属板を観察したり触ったりと調べながら、思い思いにそんな感想を述べた。
「なら、デュラン。この模様が割れる原因ってことなのかよ? たぶんそうだよな? なんせ表面に出来てやがるんだから、これが割れを作ってる原因としか俺には考えられねぇもん」
そしてアルフが問いかける形で、そう聞いてくる。
「俺もまだ確証はないが、これが悪さしていると考えるのが普通だろうな。実際プレス機にかける前のこの金属板には割れのようなものは一つも見受けられない。これが原因の一つと見て、まず間違いないだろうな」
デュランはアルフの問いかけに頷く形で肯定してみせた。
デュランも圧延前の工程に何らかの不具合があるとは予想していたものの、その原因までは分からなかった。
それは連続鋳造機を経て真っ赤に熱せられたままプレス機にかけられていたためであり、こうしてマジマジと鋳造機を出てきたばかりの金属板を観察することができなかったからである。
成型され押し出されて出てくるとはいえ、その表面は見るからに熱く間近に顔を近づけることすら困難なほどだった。
しかし、今回はそのアルフの好奇心こそが手助けとなってくれたのだ。
彼が気づいてくれなければ、きっと未だに原因を解明するその糸口すら見つけられなかったかもしれない。
「だが、どうしてこんなものが出来るんだろうな? それに断続的ってぇ~か、妙に整いながらこの模様が刻み込まれているよな?」
「「う~ん」」
アルフが何気ない疑問を口に出すと、デュランとゼフはまたもや腕を組みながら唸るように考え込んでしまう。
確かに金属割れらしき原因は突き止めることは出来たが、依然としてそれがどうして発生するのか、また規則正しくも縞模様が出来ているのか、大本の原因は未だ不明のままである。
だが、工程その一つ一つを改めて確認することで、原因に辿り着くことができるとアルフのおかげで確信することが出来たのだ。
あとは彼も交え、三人でその縞模様が出来る大本の原因さえ掴めれば、割れの原因究明までできることだろう。
けれども、それにはまだまだ乗り越えない壁がいくつもデュラン達の前に立ちはだかるのであった。
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