第286話 一筋の光
それから数日後、デュランとゼフは何度となく工程の再確認や使われている素材の質を確かめてみたが、これといった原因を突き止めることはできなかった。
なんせ出てくる鋼鉄に何の問題もなく、プレス加工すると問題が発生してしまうという摩訶不思議な現象である。その前後の工程はもちろんのこと素材の一つ一つ、それこそ使われている機械の一つ一つを確かめてみても、どこにも問題は見受けられなかった。
「削れば、なんとか製品にはなるんだがな……」
「だが、それにはあまりにも人手と時間がかかりすぎてしまう。効率化によって短期間での鋼鉄が大量生産できたとしても、結局製品として仕上げるため、それまでと同じだけの時間がかかることになる」
ゼフとデュランはほとほと疲れ果ててしまっていた。
未だ出口の見えない暗闇のトンネルを永遠歩かされているような感覚に陥り、一筋の光すらも垣間見えない。
「それにレールとして納品するには、見た目もある程度必要になってくる。なんせ、その上を重量のある車輪が通るんだからな。製品過程で引っ掛かるようなことがあっちゃ、鉄道事故へ繋がっちまう」
「鉄道事故を減らすために鋼鉄の素材にするのに、逆に事故なんて起きてしまったら、それこそ目も当てられなくなってしまう」
出来た鋼鉄を製品として納めるには、表面に出来ているスラッジを削り落としたうえで、表面をヤスリなどで
でなければ、たとえスラッジを削り落としても表面上に凹凸や鋼鉄の
「おっす、デュラン! 鋼鉄のレール製造は順調か……って、その顔を見れば上手くいってねぇことは丸分かりだよな」
「……なんだアルフか」
「なんだってのはねえだろうよ、デュラン。俺はお前の親友なんだぜ? なのに数日会わなかっただけで、その態度はないんじゃないか?」
「……いや、すまなかったなアルフ。どうも最近忙しいうえに解決できない問題ばかりで頭を悩ませてしまい、あまり余裕が無かったんだ」
「ま、だろうとは思ったけどよ」
二人が頭を悩ませながら行き詰っているところへ、アルフが顔を出した。
彼はこの数日の間は仕事を休んでおり、デュランと顔を会わせたのも数日振りのことだった。
だがそれでも一応レストランの方には顔を出していたので、デュラン達が悩んでいる概要だけはリサやネリネ達から聞いていたのである。
「それよりも、妹さんの具合はもういいのか? 流行病か何かだったんだろ?」
「あ? ああ、妹はもうすっかり良くなってなぁ~、今日なんか俺が止めるのも聞かねぇで外に遊びに出ちまうくらいで、ほんと困っちまったよ。病み上がりだってのに元気すぎるのも、考えものだよなぁ~」
「そうなのか? ま、何にしても治ったのならそれは良かったことじゃないか」
「ああ……そうだな。それにこうも仕事を休んでばかりだと体が
数日前アルフの妹が病気になり、彼はその看病をするための仕事を休んでいたのである。
だが当然のことながら仕事を休んでしまえば、収入は無くなってしまう。一人で一家を支えている彼としては、家族を含めた死活問題に他ならなかった。
もちろんデュランは親友である彼の家庭の事情を踏まえ、日当を払おうとしたのだったが、彼は「仕事もしてねえのに、金なんか貰えるかよ!」と言い出して、その申し出を頑なに断ったのである。
彼らしいとは思いつつも、それでもデュランは彼の元へこれまでと同じく家族の人数分のパンやスープ、それと果物や薬などを届けようとした。
しかし、直接彼の家を訪ねようにも、デュランは彼の家を知らなかったのである。
今にしてみれば不思議だったのだが、これまでアルフから家族の話を聞かされることはあっても、戦地から帰ってきてからは直接会ったことは一度もなかった。
また家にしてもデュランと彼が戦地へと赴いていた間に引越しをしていたらしく、今住んでいるところは別の場所だという。試しにデュランが彼と彼の家族が住んでいた家を訪ねてみたが、そこは既に空き家となっていた。
このため一日に一度、アルフはレストランに顔を出して食べ物を受け取るついでに、仕事についての近況を聞いていたというわけだった。
それに幸いにも彼の妹の病気はそれほど深刻ではなかったらしく、彼は明日から仕事に復帰できると口にした。
「それで今度はルイスの奴に無理難題を押し付けられたんだろ? それに鋼鉄の大量生産にも不具合が生じちまったって」
「ああ、そうなんだ。だが一応は再加工の処理を施せば製品として通用するが、それでも手間を考えれば芳しくないのは事実だな」
アルフは今日はもう何もすることがないとレストランを訪ねた際、リサからデュランが精錬所に居ると聞き及んだとのこと。
そして何か手伝えることはないかと、こうして一緒に知恵を出すため精錬所まで来てくれた。
デュランにとってもアルフの存在はありがたい限りであり、ゼフも交えて難問に当たればきっと解決できるものと信じていた。
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