第255話 鋼鉄の生産効率
「なぁ。ちょっといいか?」
「ん? なんだい、ツンツン頭の兄ちゃん」
アルフが手を挙げ、ゼフに声をかけてきた。
「鋼鉄を作る精錬ってのには、色々と問題があるんだろ? なら、鉄のままじゃ駄目なのか?」
「鉄のまま? それは銑鉄をそのまま冷やして使うってことなのか? だが、それでは耐久性がとても足りないぞ。それに精錬した後の鋼鉄でさえ、質が劣ると言っているんだ。話にならないだろ?」
「ああ、それにはちょ~っとばかし問題だろうな。なんせ、ただ不純物を取り除いただけの鉄じゃ、硬くなっても脆いんだよ。それこそ耐久性なんて言葉は使えねぇほどになっちまうよ」
デュランとゼフが頭を悩ませていると、アルフはそのままで使うのどうなのかと提案してくる。
だが、それも二人は即座に否定してしまったが、それでも彼は食い下がろうとする。
「それなら、鍛冶屋がしているみたいに鍛えるってのはどうなんだ? こうハンマーでカンカンカンってさ」
「アルフは鍛冶屋のように鉄を鍛えるっていうのか?」
突拍子も無い考えだとは理解しつつも、デュランは専門家であるゼフの顔を見てしまう。
もし可能ならば……との期待も、もちろん込めての行動だった。
「う、うーん。確かに鍛錬っていうのはあるにはあるが、それでも銑鉄では全然話にならねぇよ。仮にウチで作られる鋼鉄を鍛錬するにしても、相当な時間がかかっちまう」
「ちなみになんだが、
デュランは何気なく指差しながら、そうゼフに聞いてみる。
多少の時間と費用で済むのならば質を上げるため、アルフの案を承認するつもりでいた。
「…………(ふるふる)」
けれどもゼフから返された答えは理想には、程遠かった。
彼はデュランのその問いかけに対し、首を横に振るだけで一向に口を開こうとしない。
「じゃあ三日……いくらなんでも四日はかからないよな?」
「はぁーっ」
デュランが四日と口にすると、彼は盛大な溜め息をつかれてしまう。
そして観念したのか、こう口をついた。
「…………二週間だ」
「なっ!?」
さすがにそれはデュランの予想を大幅に裏切る返答だった。
ここまで押し黙るということは、まさか一日二日ではないと思っていたが、それでも二週間……十四日というのは、いくらなんでも予想外である。
「それが鋼鉄が高値で取引される由縁だ」
ゼフは驚くデュランを尻目に、そう言葉を付け加える。
この時代でも鋼鉄を作る技術は確立されていた。
けれども、先に述べた理由も相成って大量生産には向かなかったのである。
質の高い鋼鉄は貴重で高価なため、主に小さなナイフやフォーク、アクセサリーとしての貴金属にしか使われなかったのである。
「鉄よりも遥かに強度が強い鋼鉄を大量生産することができりゃ~、この街は……いや、この国が、世界さえも大きく変わるかもしれねぇ。ま、夢物語みたいなものさ」
そう口にするゼフは、どこか夢を語る少年のような目をしていた。
きっと彼自身も、これまで何度も挑戦しては成し遂げられなかったのかもしれない。
また鋼鉄の大量生産が確立されるまで、鉄と言えばただ不純物を取り除いて作る銑鉄か、反射炉と呼ばれる精錬方法で作られる
前者はあまり強度を必要とせず、安く大量生産できるようにと最初から型がある
後者の錬鉄の場合には銑鉄よりも更に強度があるため、鉄道のレールや建物の鉄骨、そして鉄橋などに多く使われていた。
当時から鋼鉄は錬鉄よりも更に強度があることは知られていたが、製造過程で数倍以上の
「もちろん兄ちゃんが言ったように、ただの鉄じゃなくて錬鉄を鍛えれば、それなりの強度にはなるだろうよ。でもな、それこそ鋼鉄以上ではないにしろ、一日二日で鍛錬できるようなものじゃねぇんだよ。それに人手と燃料費が嵩んじまうから、たとえ作れても買い手がつかねぇ。鋼鉄は言わずもがなだ。だからこうした小物を作る程度なのさ」
ゼフはせっかくアイディアを出してくれたアルフに対して済まなそうな顔をしながらも、現実を理解してもらうため、厳しい言葉で説明してくれた。
仮に鋼鉄の大量生産が成功したとしても、買い手がつかなければ無意味になってしまう。
逆に費用面で圧迫するので、かえって会社にとっては大損になってしまうかもしれなかった。
また最初にアルフが口にしたとおり、街で見かけるような鍛冶屋で鍛える程度では、より多くの人手とともに、生産できる量が限られてくる。
それこそ手の平サイズの鋼鉄を作り上げるのでさえも、膨大な時間を要することになってしまい、とても現実的とは言えなかったのである。
もしもゼフが語ったように、質の良い鋼鉄を短期間で大量生産できるようになれれば、世界を一変させるだけの力を得たのと同じになるかもしれない。
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