第253話 複雑な製錬の工程
鉄鉱石の中には、石や砂の他にも
一般的に鉄鉱石と呼ばれるものの多くは硫化鉄または酸化鉄であり、それに含まれる鉄の割合は質の良いものでも50%~65%程度の含有量であった。
このため、そのままでは金属としての鉄として用いることができないため、高温に熱した炉の中で珪素を始めとする、不純物の除去するため石灰石(カルシウム)を融材として一緒に入れることで、
これは還元反応と呼ばれるもので、溶かした鉄から酸素を取り除く大切なものである。また炉下の側部に設けられた羽口からフイゴを用いて大量の酸素を取り入れることで、コークスを燃焼させ、それと同時に炭素が鉄内部にまで溶け込むことで鉄の融点が大幅に下げる役割も担っている。
また鉄鉱石と木炭にフイゴで空気を送って燃焼させると、炭素と酸素を結合して還元することで製錬される昔ながらの鉄である『たたら製鉄』というものが出来上がる。
一見すると燃料費用の観点から、コークスではなく木炭を用いるべきと思われるだろうが、それには問題点もある。たたら製鉄の製錬では、木炭または石炭では高温時に軟化溶解してしまう。このため粘性が増して炉底に融けた鉄金属が溜まり、その都度排出しなくてはならない。
その点において、石炭を
だがそれも高価なコークスを用いなくてはならず、費用の観点から言えば木炭に劣るデメリットも存在する。それに木炭や石炭とは違い、コークスは燃焼しにくいという点を問題点として挙げられ、このことにより水車を用いたフイゴから蒸気機関を用いたものへと移り変わっていく。
16世紀には約6メートルほどの高さの高炉で日産(一日の生産量)1トン、18世紀には高さ9メートルで日産4トン、19世紀末には24メートルの高炉で日産65トンという大量生産が可能となっていた。
デュランの精錬所では小規模な9メートルの高炉が用いられていたのである。
これらの作業によって、炉の中に入れられた鉄鉱石は鉄と酸素に分かれ、溶けた鉄はその流れる様から
またその他の不純物は
この時、仮にデュランが提案したとおり、大昔のようにコークスの代わりとして石炭を用いてしまった場合、石炭に含まれる硫黄成分が鉄をより脆くしてしまうことがある。これは一般的に『
硫黄に熱を加えると鉄が柔らかく流動性を富むことになるが、その反面、鉄素材自体を脆くしてしまう傾向があった。
これは何も製錬作業に限った話ではないが、ここでも社会と同じく矛盾が生じていたのである。
社会も金属もまた、その矛盾こそがそのものを弱くも強くもするのであった。
「ま、こうした銑鉄を作る工程を専門用語では
ゼフは自慢げにそう説明してくれたのだが、デュランには引っ掛かる部分があった。
それというのも……。
「それは純度を高めたとはいえ、ただの鉄なんだよな? その後に精錬の作業というか、工程を行うようになるのか?」
「おーっ、雇い主さんは気づいたか? 対してツンツン頭の兄ちゃんは、ま~だ理解してねぇって顔してんな。こんなんで本当に鉱山で働いているのかい?」
デュランがそう疑問を口にすると、ゼフはニタリッとした笑みを浮かべ、そしてデュランの隣に居て未だ理解できていないと言った票用を浮かべているアルフを尻目に苦言を呈する。
尤も、原材料が採掘できる鉱山で働いているアルフが、複雑な工程を理解できなくても無理はなかった。と言うのも、これまでの説明はあくまでも鉄鉱石を溶かし、鉄を製錬しただけの作業にすぎなかったのである。
この後、更に鉄を鍛えるための精錬作業の他にも、鉱物資源は何も鉄だけの話ではない。
銅や錫、また鉛や金銀など、それこそ覚えることは限りなくあった。
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