第235話 動き出したリアン
「うんうん。君とこうして話がまとめることができたのは、私にとっても何より喜ばしいことだよ! 本来なら、ここでこのまま食事でもしていきたいところなのだが、生憎と他所で人を待たせているのでね。また別の機会に寄らせてもらおうことにしよう。ああ、それと必要になるであろう資金と説明については、後日改めて君へ人を寄越すようにするからね。詳しい説明については彼に聞いてくれたまえ」
「えっ? 別の人ですか? それは一体誰のこと……」
まだ何一つ話を煮詰めていないにも関わらず、フィクサーはもう用は済んだと言わんばかりに席を立つと、店を立ち去ろうとする。
デュランはあまりにも突然のことに思考が追いつかず、共に席を立ち彼のことを引き留めようとした。
「この店はもう開いてるのかい? 二人なんだが……いけるか?」
「ほらほら、ちょうどお客さんがやって来たようだ。君も仕事をしないと、ね」
「あっ」
ちょうどのそのタイミング二人組みの男達がレストランへと食事をしに入ってきたのである。
フィクサーはそれすらも予感していたのか、今入ってきた彼らへと接客するようデュランの背中を軽く押して微笑んだ。
「い、いらっしゃいませ……お二人ですね? どうぞ空いてますよ。お好きな席に座ってください」
「おう。ありがとよ兄さん。邪魔するぜ」
「にしても、ここのところマシな仕事がありゃしねぇよな。ほんと、この国はこのままだとどうなっちまうのかねぇ~」
デュランが近場の席へ誘導すると男達二人組みは、さっそく各々何かを話し始めた。
朝食を取りながらでも、仕事について話をするのか愚痴でも零すのかもしれない。
そしてデュランがふと後ろを振り返ってみると、いつの間にかそこへ立っていたはずのフィクサーは影も形も無くなっていたのである。
デュランが客の応対をしている隙に、店の外へと出て行ってしまったのかもしれない。
「まぁ……いいか。どうせまた会えるだろうしな」
デュランはもう用件は済んだと納得することにし、彼との別れの挨拶くらいはしたかったと思い留まることにした。
――そして翌日の午後、とある人物がデュランの元へ訪ねて来た。
それはデュランにとっても意外すぎる人物であった。
「すみません。デュラン・シュヴァルツ様は今いらっしゃいますでしょうか?」
「ああ、デュランは俺だが、何か用でも……ん? お前はルイスのところの執事……名前は確かリアンだったよな?」
「はい。私はルイス様のお世話をしております、執事のリアンと申します。こうしてデュラン様と面と向かい、ご挨拶をするのは初めてでしたね」
それはルイスの傍にいつも控え、ケインのことをイカサマポーカーで嵌めたリアンだった。
デュランは彼について詳しくは知らなかったのだが、それでも彼が自分の元を訪ねて来たのには驚きを隠せない。
「フィクサーより、デュラン様へ手渡すようにとの資金をお預かりしております。今、時間のほどはよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。ちょうど店も昼の書き入れ時が終わったところだから暇だしな。この席にでも座ってくれ」
「ありがとうございます」
彼はフィクサーより預かりし資金と、それに纏わる話をするため、ここまでやって来たとのこと。
デュランは驚きつつも、一応の礼儀として近くの席へと案内する。
ちょうどお昼時も終わったばかりで、店内はまだテーブル上に食器などが上げられたままだったが、比較的既に片付けられていた席についてリアンと話をすることにした。
「話をする前に一つ聞きたいことがあるんだが、お前はあのフィクサーとは知り合いなのか?」
「えぇ。もちろんです。ですので、私がこうしてここへ来ました」
「う、うーん。そうなのか。むーっ」
「あの……何か私に疑問がおありなのでしょうか?」
さすがのデュランでも、これは罠ではないかと思い始めてしまう。
それが顔と声に出てしまい、リアンが不思議そうな表情でそう尋ねて来る。
なんせ目の前の執事はルイスの右腕と言っても相違ないはずだと、デュランは認識していたのである。
それがまさか主であるルイスのことを裏切り、こうして自分に手を貸すなどと誰が予想することができたであろうか?
デュランでなくとも、何かしら別の思惑があるのではないかと勘繰ってしまうことだろう。
「まぁその、疑問というかだな。言いにくいのだが、お前はルイスのところの執事なのだろ? それが何故、俺のことを助ける真似事をしているんだ? 主であるルイスのことを裏切り、怖くはないのか?」
「ああ、そのことでしたか。ふふっ」
デュランは言いにくそうにリアンに向かい言葉を口にしてみると、彼は何食わぬ顔で少し微笑みながらもこんな言葉を口にする。
「確かに私はルイス様の傍で執事をしておりますが、好きでそのようなことをしているわけではありませんからね。むしろその逆なのです。ふふふふっ」
「っ!?」
リアンは今、デュランの目の前で危なすぎる本音を口にした。
またそう口にする彼の表情がどこかフィクサーを感じさせ、その自虐的とも狂気とも思えるなんとも言い表すことのできない感情が幾重にも入り混じっていたのである。
それを間近で目の当たりにしたデュランには、そんな表情を浮かべているリアンがどこか不気味な存在であると疑わずにはいられなかった。
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