第133話 マーガレットの覚悟
デュランとアルフが坑道内部で岩塩を発見して喜んでいる最中、対するようにマーガレットはルイスの申し出によって危機へと追い込まれていた。
「こ、婚姻ですってぇ~~っ!? ああああ、貴方なんかとこの私がぁっ!?」
「ああ、そうだとも。なんだ、その歳で耳が悪いのか? それと少し声が大きすぎるぞ。私の耳が悪くなったら、ちゃんと生涯にわたってその責任を取れるのか?」
「なっ、なっ、なっ……なあぁぁぁっ!!」
マーガレットが大声を張り上げて叫ぶと、ルイスは耳に手を当て嫌味を口にする。
当然そのようなことを突然言われ、彼女が驚かないわけがなかった。
先程まで多大な負債を請求していた相手に打って変わり、今度は自分と婚姻を結べと差し迫って来たのだ。
これがマーガレットじゃなくとも、驚くに決まっている。
(一体何なのコイツっ!? どんな思考をしているのよっ! いきなり私と婚姻を結べとか言ってきて……そんな冗談を本気で口にしているのかしら?)
(くくくっ。まさかそう来るとは思ってもいなかったという反応をしているな。ま、それは私自身、同じことなのだが……)
ルイスも自分自身でとんでもないことを口にしてしまった……と、若干ではあるが後悔し驚いてもいた。
だが同時に打開策になることも知っていたのだ。
(この女が私のモノになれば、デュランの奴はさぞかし悔しがることだろうなぁ~。それにそうして手元に置けば、私に刃向かうような真似をしなくなるかもしれん。どちらにせよ家と屋敷までも手に入る……すべてが丸く収まるとはまさにこのことだなっ!)
ルイスは当初予定していた計画とは違い、マーガレットを名ばかりの伴侶として迎えることでデュランのことを貶めることにした。
未だに彼女に対して情を持ち合わせているデュランならば、それを知って悔しがるに決まっている……そう考え、マーガレットに対してそのような提案をしてきたのだった。
(それにこの女は腐っても旧ツヴェルスタ家の長女。それならば偶然にも、私の目の前に飛び込んできた『兎』を利用しない手はない。名家というのはその名の通り、『その名』にだけ価値があるものだ。仮に没落しようが生活が苦しかろうが、所詮周りのクズ共から見れば同じこと。人はその名に媚び
ルイスは彼女が名のある貴族であることを最大限に利用する腹積もりである。
今は成金にすぎない彼の家が旧家であれ、名のある貴族と血縁関係を結ぶことができれば、周りの人間はそれに従うのみ。それこそこれまで彼のことを馬鹿にし嘲笑っていた貴族でさえ、
(一体私はどうすればいいのよ……。もちろんこんな奴の妻になるなんて、真っ平ごめんだわ。でもそうしなければデュランに迷惑をかけてしまう)
マーガレットもマーガレットで、ルイスと婚姻を結ぶなんてことは考えもしておらず、当然そんなことを言われても突っぱねようと思っていた。
もしここで突っぱねてしまえば、ルイスは本当に彼女が負っている負債をデュランへと催促するかもしれない。そうなってしまえば、金も財産も持ち合わせていないデュランは、彼女の後を追う形で自己破産するしか道はなくなってしまう。それは彼の人生をまたもや狂わせるには、十分すぎるほどの理由となる。
(それだけは駄目よ……絶対にこれ以上デュランに迷惑はかけられないわ。ほんとによくこんな突拍子もないことを思いついたわね、ルイス・オッペンハイム!)
先程まで余裕の顔をしていたマーガレットは、ルイスのたった一言によって追い詰められていた。
彼と婚姻を結べば、負債は清算されデュランには迷惑がかからない。だがもしここで断れば、デュランは多額の負債により破産を強いられることになる。
マーガレットには、最初から一つの道しか残されていなかった。
「で、どうするのだ? 時間が欲しいというならば……」
「いいえ、そんなものは結構よ」
「ほぉ」
彼なりの慈悲なのか、ルイスはマーガレットに考える時間を与えようと口にしたが彼女は既に腹を決めたのか、息つく間もなくそれを拒んだ。
そして覚悟を決めた顔付きでこんな言葉を口にする。
「貴方のその申し出……受けてあげるわよ!」
「……本気か?」
マーガレットはルイスの申し出を承諾した。
それは予想もしていなかったのか、彼は再度彼女の意思を確認するかのように訪ねた。
「何よ、その疑いをもっているような顔付きは? そもそもこれは貴方から言い出したことでしょ?」
「いや、まぁ確かにそうなのだが……まさかキミがこの場で快くも承諾するとは思わなくてね」
「ふんっ! ほんっと、よく言うわね。貴方がそうするように仕向けたのでしょうに? それなのに言い出した貴方のほうが驚いてどうするのよ!」
「わ、私は
ルイスは強気なマーガレットに押され気味になりながらも、どうにか男としての面目を保とうとする。
「でもいくつか条件があるわ」
「条件だと? 言ってみてくれ」
マーガレットはこれだけは譲れないと、ルイスとの婚姻に関してある条件を突きつけることにした。
その条件の内容とは……。
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